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経産省のトイレ制限訴訟、性同一性障害の職員が逆転敗訴 「結論ありきでずさん」上告方針
会見に参加した職員(東京・霞が関の司法記者クラブ、弁護士ドットコム撮影、2021年5月27日)

経産省のトイレ制限訴訟、性同一性障害の職員が逆転敗訴 「結論ありきでずさん」上告方針

性同一性障害の50代の経済産業省職員が、戸籍上は男性であることを理由に、女性トイレの使用制限などをされたのは不合理な差別だとして、国に処遇改善と損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が5月27日、東京高裁(北澤純一裁判長)であった。

北澤裁判長は、使用制限を取り消し132万円の賠償を命じた一審・東京地裁判決を変更し、使用制限を適法とした。上司の「なかなか手術を受けないんだったら、もう男に戻ってはどうか」という発言については、11万円の賠償を命じた。原告側は上告する方針。

判決言い渡し後、東京・霞が関の司法記者クラブで会見した職員は、「ある程度原告に有利な判決が出るのではないかと楽観的な見通しでいましたが、見事に覆されました。高裁判決は法律の素人の私が見ても、結論ありきの極めてずさんな印象を受けた」と話した。

●これまでの経緯

判決などによると、職員は男性として入省後、1998年に身体的な性別は男性であるが、性自認は女性である性同一性障害の診断を受けた。その後、女性ホルモン投与などの治療をはじめ、経産省との話し合いをへて、2010年7月から女性職員として勤務することになった。

経産省から女性用休憩室や更衣室、乳がん検診の受診などは許可されたが、女性トイレについては、勤務するフロアから2階以上離れたフロアのトイレを使用するよう言われた。

日本で戸籍上の性別変更手続を行うには、性別適合手術を行わなければならないが、職員は健康上の理由から手術を受けられないため、現在も戸籍上の性別変更手続ができないままでいる。

しかし、上司は2011年6月、職員に対し「性別適合手術を受けて戸籍の性別を変えないと異動できない」などの異動条件を示した。話し合いの中で、当時の上司からは「なかなか手術を受けないんだったら、もう男に戻ってはどうか」といった発言もあった。

●高裁判決の概要

高裁判決は、性別は「個人の人格的生存と密接不可分のもの」とし、「自らの性自認に基づいた性別で社会生活を送ることは、法律上保護された利益である」と示した。

女性トイレの使用制限については、「公務員が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と当該行為をしたと認め得るような事情があるとは認めがたい」として、国家賠償法上違法とは言えないとした。

原告側は、原告が女性トイレを使用することについて違和感を持つ職員がいるとすれば、経産相が職員に対し人格権に基づく権利であると説明し、原告の権利を保護すべきと主張していた。

これに対し、判決は「経産省としては他の職員が有する性的羞恥心や性的不安などの性的利益もあわせて考慮し、原告を含む全職員にとっての適切な職場環境を構築する責任を負っていることも否定しがたい」とし、女性トイレの使用制限は「責任を果たすための対応であった」と指摘した。

また、経産省が決めた女性トイレの使用制限は「事業主の判断で先進的な取り組みがしやすい民間企業とは事情が異なる経産省において、経産省が積極的に対応策を検討した結果、関係者の対話と調整を通じて決められたもので、原告も納得して受け入れていた」と評価し、不合理であるとは言えないとした。

原告の「人事異動及びトイレの使用制限を設けない」などの要求を認めないとした人事院の判定についても、戸籍上の性別変更手続をしていないトランスジェンダーのトイレ利用は「所属する団体や企業の裁量的判断に委ねられており、経産省の裁量を超えるものであったとはいえない」とし、人事院の判定は適法とした。

●弁護団「何も検討していない」判決を批判

弁護団の山下敏雅弁護士は「裁判所の判断は極めて雑。何も検討しないまま『漫然としていたわけではないので適法』とし、国家賠償法での違法性のハードルを上げている。全く深みがなく、法律家の書く文書として極めて雑だ」と憤った。

職員は「2002年の新聞報道で男性社員として入社した人が女性として勤務し始めた事例が掲載されている。民間企業の中には、2004年に施行された性同一性障害者特例法前に本人の性自認に基づいた対応をしているところもある。それから20年近く経っているのに、なぜ本人の性自認に基づいた対応ができないのか」と訴えた。

一審で国が提出した証拠により、2010年6月に経産省が女性職員2人に、原告の許可なく原告が性同一性障害であると明かし、女性職員として勤務することについてヒアリングしたことが判明した。

これについて、控訴審ではプライバシー侵害の慰謝料として50万円の請求を追加したが、判決は「原告の要望事項に対応するために実施されたもの」とし、国家賠償法上の違法性を認めなかった。

この判断について、立石結夏弁護士は「本人のためであっても善意であっても、アウティングは重大なプライバシーの侵害。日本や世界でセクシャルマイノリティの権利を保障するためにどうすればいいか議論が進んでいる中で、裁判官がこんなに雑に判決を書いたことは強い憤りを感じている。最高裁で正しい判断を出してもらいたい」と話した。

●事件の経過

大学卒業後、男性として経済産業省に入省
1998年 性同一性障害との診断を受け、女性ホルモン投与などの治療を開始
2009年7月 人事担当部署と上司などに「女性職員として勤務を開始したい」と申し入れ
2010年7月 約1年に渡る話し合いを経て、人事担当部署が女性職員として勤務することを条件つきで認める
2011年5月 家庭裁判所の許可を得て、戸籍上の名を変更
2011年6月 上司から「性別適合手術を受けて戸籍上の性別を変更しなければ異動ができない」などと告げられる。以後、処遇をめぐって話し合いが続く
2013年12月 人事院に対し「人事異動及びトイレの使用の制限を設けない」などを求めて、行政措置要求を行う
2015年5月 職員の要求を認めない人事院判定
2015年11月 東京地方裁判所に提訴
2019年12月12日 東京地裁判決
2019年12月25日 原告と国の双方が控訴
2021年5月27日 東京高裁判決

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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