個人で始める店の名前をどうするべきか――。動物の世話をする「ペットシッター」として開業しようと準備している30代女性Hさんの目下の悩みだ。
東京都内で共働きをしているHさんだが、このほど会社を辞め、長年の夢だったペットシッターとして開業することを決意した。店の名前として使う「屋号」については、コピーライターの友人にアドバイスをもらったり、デザイナーの友人に手伝ってもらったりしながら、じっくり考えた結果、「これだ」と納得できる形になった。
しかし、その段階になって、大手企業が同じ名前で「ペット保育園」を経営していることが分かったのだという。Hさんは、できれば時間をかけて考えた名前を使いたいと思っているが、大手企業のペット保育園と同じ名前を使ったら何か問題になるのではないかと心配している。
店を構えるとなれば「○○屋」「○○商店」といった屋号をつけるのが普通だが、そもそも「屋号」とは、どういうものなのだろうか。Hさんは屋号を変えたほうがよいのだろうか。不正競争防止法にくわしい高島秀行弁護士に聞いた。
●「屋号」とはいったいなにか?
「個人が、本名以外の名称でビジネスをする際に使う名称を『屋号』と言います。
屋号は、企業が会社名以外でビジネスをする際にも使います。たとえば『株式会社すかいらーく』は、『ガスト』や『ジョナサン』、『バーミヤン』といったチェーン店舗を運営しています」」
屋号を付ける際に注意すべき点は?
「屋号をつける際に注意しなければならないことの1つに、不正競争防止法の『営業主体誤認行為』に該当しないようにするということがあります。
この『営業主体誤認行為』とは、すでに他人が営業で使用している名前や、似ている名前を利用することを言います」
既存の店と同じ名前を使ったら、即アウト?
「単に同じ名前を使用するというだけでは、不正競争防止法で禁止する『営業主体誤認行為』には該当しません。その名前が、全国的に、あるいは特定の地域や業界などで有名であることが必要です」
●業態や地域が違うならセーフの可能性はあるが・・・
「今回のケースでは、ペットシッターとペット保育園という、おなじペット業界です。
しかも『ペットの面倒を見る』という点で類似の営業ですから、同じ名前を付けることは、『営業主体を誤認させる行為だ』と判断される可能性があるでしょう。
ただ、既にある大手企業のサービスが地域限定であれば、少し話が違ってきます。
たとえば、そのサービスが関西や九州限定で、東京では全く知られていないという状況であれば、東京で同じ名前を付けても『営業主体誤認行為』に該当しない可能性が出てきます。
しかし、最近だと、たとえ店舗がその地域になくても、インターネット上で全国的に有名というケースもありますので注意が必要です」
高島弁護士はこのように話していた。
そうなってくると、新しい店舗やサービスの名称を考える際には、名前がかぶっていないかインターネットで検索してみることが、もはや不可欠の時代になったと言えそうだ。