今年、大ヒットしたテレビドラマと言えば「半沢直樹」。印象深いシーンやいくつもあるが、やはり上司の不正を暴くところは多くの視聴者にとって痛快だったことだろう。しかし、現実世界で半沢直樹のように、鮮やかに不正を暴くことは非常に難しい。やり方を間違えれば、相手から仕返しを受けるかもしれないし、会社内で居場所を失ってしまうかもしれない。では、不正を知ったとしても黙っていることが会社員としての処世術なのだろうか。決してそんなことはない。自分の立場や身分を守り、不正を暴く方法はある。具体的にどのような方法なのだろうか。
●不正行為を正すか、見て見ぬふりをするか
「上司が取引先から頻繁にキャバクラ等で個人的に接待を受けているのですが、どうも取引先からの仕入単価の査定を甘くして、水増しした金額を会社から支払わせているようです。接待はその見返りのようです。上司は役員の覚えもめでたく、逆らったら何をされるか分からないので、自分の名前は絶対に出したくないのですが、このまま黙っているのは我慢できません……」
「同僚はある弊社商品の品質管理担当者なのですが、飲んだ席で、取引先に開示している検査データの一部をいじっていると聞きました。上司の方針もあり、見栄えを良くしているようです。取引先に対する背信的行為だとは思うのですが、表だってそれはおかしいと声を上げるのは躊躇します……」
このように、企業に勤めるビジネスパーソンが、上司や同僚の不正行為を知ってしまった場合、どうすれば良いだろうか。
自分が不正行為を問題にしたと上司や同僚が知ったら、逆恨みされ、嫌がらせを受けたり、人事評価に響いたりするのではないか……。かといって、不正行為を見て見ぬ振りをするのは正義感に反する。会社内では板挟みになることも多いだろう。
実際、正義感に駆られて不正を告発したものの、「犯人探し」をされ、社内で干されたり、希望しない配転・出向命令を受けたり、ひどい場合には解雇されたりといったブラック企業の事例も存在するのが現実だ。
●内部通報者保護法によって通報を理由に不利益は受けない
規模の大きい企業であれば、近年は内部通報制度を整えている企業が大きい。企業内のコンプライアンス担当部署や、外部の法律事務所を通報窓口として、企業内部からの不正行為等の通報を受け付ける制度だ。
そのような内部通報制度がある企業であれば、まずは当該制度の利用を検討することをお勧めする。そのような制度があれば、通報者保護が図られているので、通報者の匿名性を維持しつつ、企業に内部調査を求めることができる。
内部通報制度を整えていない企業では、信頼できる上司に内密に相談するといった方法が考えられる。ただ、通報の匿名性が守られるか、通報を握りつぶされないかといった面で制度的裏付けがないため、通報する側にとっては躊躇してしまうことも多いだろう。
2006年に施行された公益通報者保護法では、従業員が不正行為(同法の別表に掲げられた法律で罪とされている行為)を勤務先や処分権限のある行政機関に通報したことを理由に、当該従業員に解雇、降格、減給等の不利益な取り扱いをすることを禁止している。
●内部通報にあたり気をつけるべきポイント
もっとも、実際問題としてはブラック企業が通報者に不利益な取り扱いをする場合、内部通報をしたことを理由として挙げることはまずない。別の何らかの理由をつけて不利益な扱いをするだろう。この不利益な扱いを巡って裁判で争うとしても、内部通報者にとって、内部通報が不利益な扱いの真の理由だと立証することには一定のハードルが伴う。
公益通報者保護法では、マスコミ等への通報は一定の場合にしか保護されないとされている。一定の場合とは、例えば書面により勤務先に内部通報しても、調査を行う旨の通知が通報から20日以内に無い場合等である。つまり、まずは勤務先に通報して、それでもだめなら外部のマスコミ等への通報が保護される、という法律になっている。
このように、公益通報者保護法も万全ではないのだ。したがって、内部通報制度が整っていない会社の場合には、通報をするにあたり、自分に不利益が及ぶことがないか慎重に検討した方が良い。事前に弁護士に相談しても良いだろう。
いざ内部通報をするときは、5W1Hをできるだけ明確にすることだ。証拠をできるだけ固めることが望ましい。
通報を受けて調査にあたる企業内の部署も捜査機関ではないので、調査方法には限界もある。単に「上司が○○という不正をしていると同僚から聞いた」といった伝聞程度では、不正行為の認定の根拠にならない。
できれば、不正を示す客観的書類などを押さえた上で通報すると効果的だろう。そのような内部情報が入手できることが内部者からの通報の威力のあるところであり、証拠で不正行為が立証できれば、不正行為を行った上司や同僚も言い逃れができず、厳正な懲戒処分等がなされることにつながる。
人気ドラマ『半沢直樹』で、半沢直樹融資課長が本店人事部の小木曽次長を決定的に追い詰めることができたのも、小木曽のカバンから支店融資ファイルにあるはずの資料が出てきたからこそである。
さらに、内部通報にあたって匿名とすることは問題がないが、通報窓口としては通報後に通報者と連絡が取れないのは望ましくない。通報者保護の観点から調査方法について通報者の意向を確認したり、追加で確認が必要になった事項について通報窓口から通報者に質問したりといった必要も出て来るため、仮名で構わないので通報窓口には連絡先を伝えておいた方が良いだろう。
●内部通報を生かすことが企業にもメリットになる
企業にとっても、内部通報制度を整え、従業員の声を広く聞くことが、企業価値を維持し、高めることにつながる。内部通報という形で役員や従業員の不正に関する情報が入ってくれば、問題が大きくなる前に、早期に調査や是正が図れるからである。
企業にとって、不祥事が内部で問題にならず、いきなりマスコミにリークされて企業の対外的イメージが大きく損なわれるようなことは、是非とも避けたいところである。
一昔前は、上司や同僚の不正行為を通報することは「密告」のようなイメージで捉えられたり、個人的な怨恨で動いているのだろうと邪推されることが多かった。しかし、公益通報者保護法の制定された頃から、企業のコンプライアンスを維持するためのツールとして、内部通報は必要・有益なものと認識されるようになっている。
●自力で不正を暴くのは困難 まずは社内内部通報窓口へ
普通のサラリーマンが、半沢直樹のように違法すれすれの手段を使って自力で上司の不正を暴くことは難しい。上司や同僚の不正をつかんだら、冷静に事実関係を調査し、客観的書類をできるだけ押さえ、まずは社内の内部通報窓口等に通報することをお勧めしたい。
そのような内部通報を大事にし、通報者を保護した上できちんと調査・是正を行う企業であれば、コンプライアンスを維持し、企業価値を高めることができるはずである。