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著作権法「判例百選」の「出版差し止め」取り消しに…なぜ結論が変わったのか?
著作権判例百選(第4版)

著作権法「判例百選」の「出版差し止め」取り消しに…なぜ結論が変わったのか?

著作権に関する判例をまとめた「著作権判例百選」の改訂版(第5版)が著作権を侵害するとして、旧版の編者の一人だった大渕哲也・東京大学教授が出版の差し止めを求めていた問題で、知財高裁(鶴岡稔彦裁判長)は11月11日までに、「大渕教授が著作権法で保護される著作者とはいえない」などとして、差し止めを認めた東京地裁決定を取り消した。

2015年10月の東京地裁の仮処分決定は、大渕氏を旧版の著作者の1人と認めた上で、改訂版の判例と解説者の大半が旧版と一致しているとし、大渕氏の氏名を編者として表示しないことは権利の侵害だと判断した。

一方、知財高裁の決定では、大渕教授は、そもそも旧版の原案作成に具体的に関与しておらず、実質的にはアドバイザーの地位にとどまるとして、差し止めを求める権利はないと判断した。

取り消しが認められたポイントについて、著作権の問題に詳しい唐津真美弁護士に聞いた。

●編集著作権はどんな場合に認められるのか?

「著作権法上、編集物(データベースは除きます)で、その素材の選択や配列に創作性があるものを編集著作物といいます。本件のように個々の素材(判例百選でいえば、掲載されている判例解説)が著作物である場合と、タウンページや英語の単語集のように、素材自体は著作物ではない場合とがあります」

唐津弁護士はこのように述べる。具体的には、どのような場合に認められるのか。

「著作権法は、『編集方針』というアイデア自体を保護しているのではなく、『編集方針に基づく素材の選択または配列による具体的な表現』を保護しています。『具体的な編集物に表現されている編集方針を創作した者』が編集著作物の創作者であり、編集著作権を持つことになります。

編集著作権は、編集された個々の素材には及びませんが、編集著作物の素材の選択または配列により創作性を有する部分を利用する行為については、無断で利用しないように求める権利があります」

●「編集方針のアイデアを提供したに過ぎないような場合は、編集著作者とはいえない」

「大渕氏は旧版の編者の1人として表示されており、大渕氏の合意を得ずに改訂版を出版する行為は、著作権侵害であると主張しました。

今回取り消された決定の争点は複数ありますが、編集著作権に関する主な争点は、(1)大渕氏が旧版の編集著作者の1人といえるか、(2)素材の選択また配列により創作性を有する部分について、旧版と改訂版の間に同一性があるか、という点でした。

この取材の時点では、知財高裁の具体的な判断内容は公表されていませんが、報道資料を見る限り、知財高裁は上記(1)の争点について、『大渕氏はそもそも旧版の編集著作者の1人ではない』と判断したと思われます。

『旧版の原案』とは、旧版の搭載判例リスト案のことです。このリストは掲載判例の選択と配列を具体的に表現したものなので、搭載判例リストの創作者といえる程度に関与していれば旧版の編集著作者といえるでしょう。一方で、旧版の編集方針というアイデアを提供した程度の関与であれば、編集著作者とはいえないことになります。

『実質的にはアドバイザーの地位にとどまる』という表現に照らすと、知財高裁は、大渕氏は旧版の編集方針のアイデアを提供したに過ぎず、旧版の編集著作者とはいえない、と認定したと思われます」

●「判例の海」を進むときの貴重なガイドブック

司法試験受験生や法科大学院生からは、「早く改訂版が出版されてほしい」という声も聞こえてくる。判例百選は重要な教材なのか。

「法律は抽象的なルールを定めたものです。このルールが現実の紛争を解決するにあたってどのように使われるか示しているものが判例です。法律の勉強にあたって判例の勉強は不可欠です。

判例百選は、日々増えていく膨大な『判例の海』を進むときの貴重なガイドブックともいえる存在ですから、改訂版を待ち望む声はよく理解できます。本件の各当事者にはそれぞれの事情や想いがあると思いますが、待っている人の手に改訂版が一日も早く届くことを期待したいと思います」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

唐津 真美
唐津 真美(からつ まみ)弁護士 高樹町法律事務所
弁護士・ニューヨーク州弁護士。アート・メディア・エンターテイメント業界の企業法務全般を主に取り扱う。特に著作権・商標権等の知的財産権及び国内外の契約交渉に関するアドバイス、執筆、講演多数。文化審議会著作権分科会専門委員も務める。

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