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2015年07月31日 14時36分

東京五輪エンブレム「劇場ロゴ」そっくり問題 「知的財産権」侵害の可能性は低い?

東京五輪エンブレム「劇場ロゴ」そっくり問題 「知的財産権」侵害の可能性は低い?
東京オリンピックのエンブレム(左)とリエージュ劇場のロゴ。デザイナーのドビさんはフェイスブック上に比較画像を投稿した

2020年東京オリンピックのエンブレムをめぐり、ベルギーのデザイナーが手がけた劇場のロゴと「そっくりだ」と指摘された問題が波紋を広げている。報道によると、ベルギー在住のグラフィックデザイナー、オリビエ・ドビさんは、エンブレムの使用禁止をIOC(国際オリンピック委員会)に求める方針だという。

ベルギー東部にあるリエージュ劇場のロゴを数年前にデザインしたというドビさんは7月27日、自身のフェイスブックやツイッターで、劇場のロゴと東京オリンピックのエンブレムを比較した画像を掲載し、「似ている」などと指摘した。

東京オリンピックのエンブレムは、アートディレクターの佐野研二郎さんがデザインしたもので、7月24日に発表されたばかりだった。今回の「似ている」という指摘に対して、東京五輪組織委員会やIOCは「国際的な商標登録の手続きを経ており、問題はない」という見解を示している。

はたして、東京オリンピックのエンブレムのデザインは、法的に問題ないのだろうか。知的財産権にくわしい唐津真美弁護士に聞いた。

●「東京五輪エンブレムと劇場ロゴと混同する人が多いとは思えない」

「今回のケースは、『商標権』と『著作権』の観点から検討する必要があります。

東京オリンピックのエンブレムが、いずれかの権利を侵害しているとなれば、権利者は使用の差し止めや損害賠償を請求できるからです」

唐津弁護士はこう切り出した。まず、商標権の観点からはどうなるのだろうか。

「仮に、リエージュ劇場のロゴが商標登録されている場合、まず問題になるのが商標権侵害です。

商標権侵害にあたるかどうかを判断する際には、通常の場合、商標が類似しているかどうかや、商品・サービスが類似しているかどうかが、問題となります。

商標の類似については、商標の外観や読み方、さらに一般的な印象の類似性を検討します。これに加えて、取引の相手方や一般の消費者が商品を購入するときに通常払うと思われる注意の程度を基準として、総合的に、商品やサービスの提供者が誰であるか『誤解するおそれ』があるかどうかを判断します。

商標の主な機能は、自己の商品を他の商品と区別するための『目じるし』としての機能にあるからです」

東京オリンピックのエンブレムは、商標権侵害にあたるのだろうか。

「さきほどの観点から、東京オリンピックのエンブレムと劇場ロゴを比較すると、たしかに図形部分においてデザインの類似性はあると思います。

しかし、色の印象、特に赤い丸の印象が大きく異なります。また、エンブレムのデザインについては『TOKYO2020』という文字や、五輪マークもセットで使われています。

東京オリンピックのエンブレムを見て、劇場ロゴと混同する人が多いとは思えません。結論として、商標権侵害が成立する可能性は低いと思われます」

●「劇場ロゴが著作物として認められる可能性は低い」

では、著作権の観点からはどうだろうか。

「仮に、劇場ロゴが著作物として著作権法上の保護を受けており、オリンピックのエンブレムが劇場ロゴに依拠して作成された翻案物と認められれば、劇場ロゴに対する著作権侵害が成立することになります」

ロゴは著作物にあたるのだろうか。

「文字のデザインであるロゴやタイプフェイス(書体)が、著作物にあたるかどうかについては過去に複数の裁判例が出ていますが、いずれもその著作物性を否定しています。

判決は『ロゴのデザイン的要素が、見る者に特別な美的感興を呼び起こすに足りる程の美的

創作性を備えているような、例外的場合には著作物性が認められる』といった表現をしています。

つまり、ロゴが著作物として保護される可能性は残されているものの、原則として、ロゴの著作物性は否定されています。過去の裁判例において、『美術としての格別の創作性を有する』と認められたロゴはありません。

このような立場に立つと、日本の裁判所において、劇場ロゴ(TheaterのTとLiege(リエージュ)のLを組み合わせたデザイン)が著作物と認められる可能性は低いと思われます」

このように唐津弁護士は説明する。

「万が一、劇場ロゴの著作物性が認められたとしても、文字をベースにしたデザインであることを考慮すれば、その著作権法上の保護の範囲は限定的になると考えられます。オリンピックのエンブレムが劇場ロゴの著作権を侵害していると認められる可能性は低いでしょう。

また、東京オリンピックのエンブレムのデザイナーが書面で発表したコメントには、『報道されている海外作品は、まったく知らないものです。制作時に参考にしたことはありません』という記載があるようです。

これが真実であれば、翻案権侵害が成立するための要件である『依拠性』がないことになるので、仮に、劇場ロゴとオリンピックのエンブレムがまったく同一だったとしても、著作権侵害は成立しないことになります」

なお、今回の東京オリンピックのエンブレムについては、スペインのデザイナー事務所が東日本大震災の復興支援のために作ったデザインと配色が同じであるという指摘もされている。

「配色は『アイデア』の範囲に属するものです。著作権で保護されているものではないので、この点についても著作権侵害は成立しないと考えます」

このように説明したうえで、唐津弁護士は次のように述べていた。

「以上から、オリンピックのエンブレムが劇場ロゴの知的財産権を侵害している可能性は低いと思われます。

劇場ロゴの権利者は、オリンピックのエンブレムが著作権を侵害している疑いがあるとして、IOCに使用差し止めを求める申立書を送付する方針だという報道もありますが、日本側として主張すべき点はきちんと主張すべきだと思います。

ただ、一連の騒動によって東京オリンピックのイメージに影響があることは否定できません。組織委員会その他関係者による誠実な説明を期待したいと思います」

(弁護士ドットコムニュース)

唐津 真美弁護士
弁護士・ニューヨーク州弁護士。アート・メディア・エンターテイメント業界の企業法務全般を主に取り扱う。特に著作権等の知的財産権及び国内外の契約交渉に関するアドバイス多数。第一東京弁護士会・法教育委員会副委員長、東京簡易裁判所・司法委員、第一東京弁護士会仲裁センター・仲裁人。
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