サッカーワールドカップのブラジル大会。日本代表は6月25日早朝(日本時間)に行なわれたコロンビアとの試合に完敗し、決勝トーナメント進出を逃した。しかし、そのゲームの前半終了直前、岡崎慎司選手がダイビングヘッドで「同点ゴール」を決めたシーンには、多くのサポーターが胸を熱くしたことだろう。
その感動を共有したい――。そんな思いを抱いた人たちが、テレビの中継画面を「Vine」などのスマホアプリで撮影し、ツイッターやフェイスブックといったSNSに投稿。感動的な得点シーンの映像が、ネット上でもあっという間に拡散した。
今回のワールドカップは、このような形でネットに投稿された動画が数多く見つかる。ただ、冷静に考えてみると、視聴者が勝手に撮影・録画したテレビ中継の内容を、ネットに投稿するのは問題なのだろうか。「ゴールシーン」の動画を何気なくSNSに投稿したことによって、処罰されたり、訴えられたりする可能性もあるのだろうか。著作権にくわしい雪丸真吾弁護士に聞いた。
●スポーツの中継動画も「著作物」になる
「そうした動画をネットへ投稿することは、基本的には『違法』となってしまうでしょう」
どうして違法なのだろうか?
「ワールドカップの中継は、カメラのズームイン・アウト、スイッチング、効果音や文字の挿入、リプレーの挿入等、いろいろな創作的な行為が行われています。したがって、中継動画は、制作者の『著作物』と評価すべきだと思います。
したがって、もし著作権者の許諾なくネットに投稿すると、著作権のひとつである『公衆送信権』(著作権法23条1項)を侵害することになります」
映像を作った人の「著作権」を侵害してしまう・・・。
「また、テレビ局の『送信可能化権』(著作物をネットで公開する権利)の侵害にもなりますね。
著作物を放送し大衆に伝えるという役割を担うため、テレビ局には、『著作隣接権(放送事業者の権利)』という特別な権利が与えられています。送信可能化権(同99条の2・1項)もその一つです。
したがって、許諾なく行われるネットへの投稿は、これら2つの権利侵害になりますから、『著作(隣接)権侵害の違法行為』という評価になるのです」
そうなると、もし権利者に問題視されれば、刑事告訴されたり、民事訴訟で損害賠償請求をされたりする可能性もあるわけだ。
●仲間内での共有も「ダメ」なのか?
ところで、誰もが見られる場所に投稿すれば、「公衆」送信権の侵害というのはわかるが、仲間内でフェイスブックなどのSNSを使って、動画を共有するような場合でもダメなのだろうか?
「『公衆』の概念をどう理解するかについては、これまでも『まねきTV事件』などの裁判で激しく争われています。しかし、現在の判例状況では、SNSで共有しただけでも、公衆送信権の侵害とされる可能性が高いと考えられます」
それでは、「テレビ放映された決定的なゴールシーン」の動画を共有するのは、そもそも諦めるしかないということだろうか?
「『引用』として利用する余地はありそうですね。『引用』(著作権法32条1項)とは、批評や報道、研究などのため、著作物の一部を適切な形式で利用することです。もし引用だと認められれば、著作(隣接)権者の許諾なく利用することができます。
引用になるかどうかは、利用目的のほか、その方法や態様、利用される著作物の種類や性質、著作権者におよぼす影響の有無・程度などを総合考慮して、決定されます」
今回のような場合は?
「ゴールシーンについての分析や、感想を述べるための目的であれば、引用する必要性は認められそうです。
利用するのはゴールシーンなのでごく短時間の映像で、仲間内だけの共有であれば著作権者に及ぼす影響は、さほど大きいとは言えないでしょう。
以上の点を重視すれば、『引用』に当たるという判断も、十分ありえるように思います」
そうした動画を「引用」して、SNSに投稿する際、何か注意する点はあるのだろうか?
「何のコメントも無く単に動画のみを投稿するという利用だと、なかなか『引用』とは認められません。「動画が無いとそのコメントが伝わりづらい」かどうかを意識すべきでしょう。また、もとの映像の『出所明示』、つまり引用元を明らかにすることも必要です」
雪丸弁護士はこのように指摘していた。もし、テレビを見ていて、その感動を「共有したい」と思った際には、こうした点に気をつけるといいだろう。