スタジオジブリは、丸紅新電力のタイアップCMとして、日本最古の漫画として知られる「鳥獣戯画」をアニメーション化した作品を発表した。
これは、800年以上前の日本最古の漫画として知られる絵巻物「鳥獣人物戯画」を素材にして、絵柄を変えずにアニメーション化した作品。丸紅新電力の公式サイトで「鳥獣戯画 出会い編」を見ることができる。2足歩行のウサギやカエルが、絵巻物の中でなめらかに動き回る様子が新鮮だ。
「鳥獣戯画」の作者について、仮説はあるものの、誰の作品かは明らかになっていない。こうした古典をモチーフにしてアニメーションを作った場合、著作権は誰のものになるのだろうか。著作権の問題に詳しい唐津真美弁護士に聞いた。
●鳥獣戯画の著作権の「保護期間」は満了している
「一般的な著作権の保護期間は、著作者の死後50年です。正確には、著作者の死後の翌年1月1日から数えて50年間が経過した12月31日に保護期間が満了します。
鳥獣戯画の作者は現在では不明となっていますが、公表当時に作者が明らかだったのであれば、その作者が亡くなった翌年から50年が経過した時点で著作権の保護は満了します。
当初から著者名を出さずに公表された場合、またはペンネームのような変名で公表され本名が不明だった場合は、作品公表の翌年から50年が経過した時点で保護期間が満了します。
鳥獣戯画の場合、正確な公表年月日も不明だと思われますが、制作されてから800年以上が経過していますので、著作権の保護期間が満了していることは間違いありません」
唐津弁護士はこのように述べる。保護期間が満了しているということは、その著作物を自由に利用することができるのだろうか。
「原則として自由に利用することができますが、まったく無制限に使えるというわけではありません。著作権法上、著作者の死後も、著作者が生きていれば『著作者人格権』の侵害にあたるような行為は禁止されているからです」
どんな場合、著作者人格権を侵害することになるのか。
「著作物の内容を、著作者の意に反して勝手に改変する行為や、著作者の名誉・声望を害するような著作物の利用は、著作者人格権を侵害する行為とみなされます。
本件の場合、鳥獣戯画の作者は、800年を経て、生き生きと動き出した動物達を見たら、むしろ喜ぶのではないでしょうか。ジブリが作成した鳥獣戯画のアニメ―ションは、鳥獣戯画の作者の著作者人格権を侵害するものではないと思います」
●新たな創作的表現について、ジブリが著作権を持っている
では、アニメーション自体に著作権は認められるのだろうか。
「鳥獣戯画のアニメ作品は、原作である鳥獣戯画の、創作性のある表現の本質的な特徴を維持しつつ、動物達の動きという新たな創作的な表現を加えた作品です。
このような場合、原作である鳥獣戯画を原著作物、アニメ作品は二次的著作物ということができます。
本件では、原著作物はすでに著作権で保護されていませんが、アニメ作品の制作にあたって新たに加えられた創作的な表現については、アニメの著作権者であるスタジオジブリが権利を持っています。
デコレーションケーキでいえば、スポンジ台が原著作物、その上にクリームで装飾した部分があらたに加えられた創作的要素です。
ジブリは、スポンジ台(原作・鳥獣戯画)については権利を持ちませんが、デコレーション部分(二次的著作物の創作性のある表現部分)については権利を持つことになります」
他の人がジブリのマネをして、鳥獣戯画のアニメを作ったら、著作権侵害になるのか。
「鳥獣戯画をアニメ化するというアイデア自体は、著作権法で保護されるものではありません。したがって、ジブリとしては、他人が鳥獣戯画を使って別のアニメを制作することを禁止することはできません。
ただし、本件アニメを勝手に利用されたり、アニメ表現が酷似する作品を他人が作ったりした場合には、著作権侵害を主張することができると思われます」
唐津弁護士はこのように分析していた。