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熊本地震に「被災マンション法」が適用され解体など容易に…所有者の同意に課題も
地震の被害を受けた熊本城

熊本地震に「被災マンション法」が適用され解体など容易に…所有者の同意に課題も

大分県を含む「熊本地震」の被災地全体で、損壊したマンションの解体や敷地売却を容易にする「被災マンション法」の適用が10月5日に始まった。対象は、損壊によって建物の価値が無くなった「全部滅失」や、価値が半分以上失われた「大規模一部滅失」。同法の適用を受けると、従来すべての所有者の同意が必要になるところが、所有者の人数と面積の両方で「8割以上」の同意で済む。

一見、震災処理が円滑に進むようにも思えるが、災害法制に詳しく、マンション管理士でもある岡本正弁護士は「要件が緩和されたとはいえ、マンションの再生や処分は容易なことではありません」と話す。一体、どういう課題があるのだろうか。

●「8割以上」とはいえ、同意形成には大きな負担

岡本弁護士は、「2013年に改正された被災マンション法の適用により、区分所有者の全員の同意がなくとも再建事業を進めることができるので、損壊したマンションが放置されるなどの事態を防ぐことができるなど効果が期待できます」と今回の適用自体は評価している。その一方で、「8割以上の同意を得ることはそんなに簡単なことではありません」と課題も指摘する。

具体的には、どんな困難があるのか。

「所有者の合意形成のためには議論が大切です。被災マンション法には、マンションの再建のほかに、敷地売却、一括売却、取壊し、取壊し後売却など、さまざまなメニューが用意されています。

この中から、マンション管理組合の役員らが、どのようなメニューを選択して議決を求めるのかが重要になってきます。経済上の観点だけでなく、これまでの住まいを永遠に失うかもしれないという住民の思いまでも背負って方針をたて、説明と議論を重ねるプロセスが必要なのです。役員らの多くは被災者でもありますから、合意形成プロセスを担うことが大きな負担となることは間違いありません。

また、5分の4とはいえ、同意を取り付けるハードルの高さは残ります。避難所や仮設住宅などに転居し、正確な居所が分からないということがあり得ます。単に5分の4の同意をとることのみを目指して、連絡が取れなかったり、反対したりしている声を無視すれば、事後のトラブル発生は避けられないと思われます」

被災マンション法が活用された事例は過去に3例ある。いずれも東日本大震災で被害を受けた仙台市内のマンション3棟だったが、うち1棟は裁判所から手続きの不備を指摘され、一度売却が無効となっている(その後、売却が成立)。河北新聞の報道によると、このケースでは、マンション敷地共有者の代表者が作成した資料に、「軽微でない欠陥があり、決議の賛否に影響を与えた恐れがある」と判断されたそうだ。

●行政や専門家のさらなるサポートが必要

岡本弁護士は「分譲マンションは、いわば大きな『縦型の街』であり、その再生や売却方針は、『まちづくり』そのもの。丁寧な合意形成プロセスが求られるのです。区分所有者(管理組合)の自己責任の問題にすぎないとするのではなく、行政や専門家が積極的にサポートすることが不可欠です」と語る。

では、どういうサポートが必要なのだろうか

「行政も住民説明会を管理組合に促したり、管理組合を支援する窓口を充実させる必要があると考えます。また、法律や建築の専門家を説明会や、住民どうしの議論の場にオブザーバーとして派遣する制度の構築も求められます」

現在、熊本市では建築政策課(096-328-2438)で相談を受け付け中。県のマンション管理士会と協力した、派遣事業も実施しているという。また、国土交通省が担当する「住宅補修専用・住まいるダイヤル」(0120-330-712)では、建築士が相談に対応。対面が必要になれば熊本県の弁護士会や建築士につないでいるそうだ。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

岡本 正
岡本 正(おかもと ただし)弁護士 銀座パートナーズ法律事務所
2003年弁護士登録。内閣府や日弁連の経験から「災害復興法学」を創設し、中央大学大学院公共政策研究科客員教授や慶應義塾大学法科大学院講師等を務める。企業・行政・地域への「生活防災」研修により「防災を自分ごとに」することを目指す。代表著書に「災害復興法学」(2014年慶應義塾大学出版会)。

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