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オートロックマンションの鍵紛失、全戸交換のため数十万円の請求ーー全額払う必要は?
写真はイメージです。

オートロックマンションの鍵紛失、全戸交換のため数十万円の請求ーー全額払う必要は?

大学入学を機に上京した女子大生サキさんは、突如かかってきた彼氏からの電話で、驚きの事実を告げられた。彼氏がサキさんの「部屋の合鍵を失くした」のだった。さらに驚きだったのは、マンションの管理人から、数十万円の費用を請求されたことだった。

サキさんは、オートロック付きのマンションに一人で暮らしていて、ときどき泊まりにくる彼氏のために、合鍵を渡していたという。紛失したことを管理人に話したところ、「(入り口の)オートロックの鍵も兼ねているので、防犯上、全戸の鍵を交換しなければなりません」と告げられ、シリンダーの交換も含めて、数十万の費用を請求されたそうだ。

サキさんは部屋を借りる際の名義人だった父親に、電話で事情を説明し、マンションの管理人と交渉してもらった。その結果、「自室のシリンダー交換代として3万円の支払い」ということで、話がついた。

今回は良かったが、そもそも、マンションの部屋の鍵を不注意で紛失した場合、全戸の交換費用を負担しなければならないのだろうか。マンションの管理問題に詳しい瀬戸仲男弁護士に聞いた。

●責任を負うのは誰なのか?

「まず、今回のケースで責任を負うのが誰なのかを考えましょう。鍵を紛失したことが賃貸借契約上の義務に違反するのなら、その責任を負うのは賃借人ということになります。今回のケースではサキさんの父親です。

しかし、父親は鍵を紛失していませんし、そもそも、彼氏に鍵を預けたのは父親ではありません。ですから、父親の言い分として『鍵の紛失に賃借人は責任がない。責任は彼氏にあるから、交換費用は彼氏に請求すべきだ』とも思えますが、実際はどうでしょうか。

現実問題としては、可愛い娘のために父親が弁償することになるものと思われますが、法理論的には次のように考えられます。

つまり、賃借人は父親ですが、その父親の賃借人としての義務(今回のケースでは鍵を保管する義務)の履行補助者としてサキさんを位置付けます。これにより賃貸人に対する関係では、父親とサキさんは一体として考えられます。そうすると、サキさんが彼氏に鍵を渡した行為は、父親が行ったものとなります。そして、鍵を渡す行為は、その鍵が紛失された場合の責任を負う覚悟で行った行為と考えるべきでしょう」

紛失した彼氏に請求することはできないのだろうか。

「法理論的には、債務不履行(鍵管理の不注意)または不法行為により、賠償を要求できそうです。彼氏が未成年であれば、彼氏の親に対して要求することになります。実際には、相手方は娘の彼氏ですから、よく話し合って解決することがよいと思われます」

●オートロックが無意味になってしまう危険性

誰かが鍵の紛失責任を負うとして、マンション全戸の交換費用数十万円を支払う必要があるのだろうか。かなり高額にみえるが・・・

「今回のケースの賃貸借契約書にどのように規定されているのかによりますが、参考として、国土交通省が作成した『賃貸住宅標準解約書(改訂版)』の規定を紹介します。この標準契約書(別表)では、『鍵の紛失の場合は、シリンダーの交換を含む。経過年数は考慮しない。交換費用相当分を借主負担とする』と規定されています。

これは、賃借人(借主)にとって厳しい規定とも思われますが、鍵の紛失は単に鍵だけの問題ではありません。鍵は、居室内に入るために必要な道具です。ですから、鍵を紛失したということは、そのカギを入手した他人が居室内に侵入する危険性を発生させたということを意味します。

オートロックマンションの場合、鍵がエントランスの解錠の道具を兼ねていることがあるため、カギを入手した他人が自由にマンション内に侵入することになり、オートロックが無意味になってしまう危険性があるわけです。そのようなわけで、オートロックマンションの場合は、全戸の鍵の交換を要求されることになるのです。鍵というものを軽く考えずに、重大な道具を預かっているという自覚が必要です。

しかし、そうは云っても、数十万円、数百万円もの大金を負担させられるのは、大変です。高額な負担を回避するためには、保険に加入する方法もありますが、法律上の理論構成として、消費者契約法第10条(消費者の利益を一方的に害する条項を無効とする)による防御を検討してみましょう。詳しいことは弁護士などの専門家に相談してみるのがよいでしょう」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

瀬戸 仲男
瀬戸 仲男(せと なかお)弁護士 アルティ法律事務所
アルティ法律事務所代表弁護士。大学卒業後、不動産会社営業勤務。弁護士に転身後、不動産・建築・相続その他様々な案件に精力的に取り組む。我が日本国の歴史・伝統・文化をこよなく愛する下町生まれの江戸っ子。

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