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獄中29年、冤罪の「布川事件」で賠償金7600万円 検察の「証拠隠し」も違法認定
会見する桜井さん(中央)[2019年5月27日、編集部撮影、都内の弁護士会館]

獄中29年、冤罪の「布川事件」で賠償金7600万円 検察の「証拠隠し」も違法認定

茨城県で大工の男性が殺害された「布川事件」(1967年)で、冤罪により29年間自由を奪われた桜井昌司さん(72歳、2011年に再審無罪が確定)が、茨城県と国に約3億円の一部として約1億9000万円の賠償を求めていた訴訟の判決が5月27日、東京地裁であった。

市原義孝裁判長は、警察(茨城県)の取り調べや法廷での偽証、検察(国)が弁護団の求めがあったにもかかわらず、証拠を出さなかったことを違法と判断。これらがなければ、刑事裁判の2審で無罪になった蓋然性が高いなどとし、約7600万円の支払いを命じた。

ただし、検察官が起訴したことについては違法を認めなかった。なお、桜井さんは無実の罪で自由を奪われた刑事補償として、すでに1億3000万円余りを受け取っている。

桜井さんは今年3月、当事者による「冤罪犠牲者の会」を結成している。判決後の記者会見で「正義は勝つと冤罪仲間に伝えられたことが本当に嬉しい」と語った。

●証拠隠しは違法「再審にも影響」

弁護団が画期的と評価していたのが、検察の証拠隠しを違法と認めた点だ。

判決では、裁判の結果に影響を及ぼす可能性が明白なものについては、開示義務があると判示。さらに、明白とまでは言えない場合でも、弁護人から具体的に特定された証拠開示の申立てなどがあれば、合理的な理由がない限り、開示する義務があるとした。

弁護団長の谷萩陽一弁護士は、「検察官としては、基本的に証拠は全部出さなければならないという規律が働くはず」と述べ、再審事件についても影響が及びうるとの見解を示した。

判決後の様子(2019年5月27日、編集部撮影、東京地裁前)

さらに、警察が虚偽の事実を告げたり、限度を超えた誘導をしたりして、桜井さんに自白させたことも違法と認定された。

谷萩弁護士は、「取り調べの録音・録画を全件ですることがいかに大切かを示した事例。録音・録画では防げない問題もあるため、弁護士の立会いも認めるべきという改革に結びつく内容だと思う」とも述べた。

桜井さんは、警察の自白強要と証拠捏造、検察の証拠隠しが冤罪をつくるとして、「検察が隠し持っている証拠が出てくれば、無罪になる事件がいっぱいあると思う」と話した。

●「警察官、検察官が真面目でいられるように…」

布川事件では、大工の男性が殺害され、現金約10万円が奪われた。警察は別件で逮捕していた、当時20代の桜井さんと杉山卓男さんに自白を強要。2人は裁判で無罪を主張したが、1978年に最高裁で無期懲役が確定。1996年に仮釈放された。

約29年自由を奪われた2人は釈放後、再審を請求し、2011年に再審無罪が確定した。

桜井さんが今回の訴訟を提起したのは2012年のこと。判決までの約7年の間に杉山さんが亡くなった(2015年)。会見では、「あんまり良い奴じゃなかったけど、ここに杉山がいて、『昌司よかったな』と改めて言って欲しかったと思いました」と、冗談を交えて、「極友」をしのぶ場面もあった。

勝訴を喜ぶ桜井さん夫妻ら(2019年5月27日、編集部撮影、弁護士会館)

会見の終わりに、桜井さんは「真面目な思いで警察官、検察官になった方々が本当に真面目でいられるような組織になってほしい」として、次のようにコメントしている。

「自分たちの思いに反して、嘘や間違ったことを主張するしかないーー。それでいいと思っている方もたくさんいらっしゃるんでしょうけど、(組織が)ダメになったなと思っている警察官や検察官の方々が真面目でいられるような組織にするために、私たち(冤罪)犠牲者の会はもっと声を上げていくつもりです。そういう仲間たちの力になれて、『俺の人生って良かったな』と思いながら判決を聞いていました」

(弁護士ドットコムニュース)

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