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「地方裁判所管理局」から謎の請求ハガキ、弁護士ドットコム記者が電話してみたら…
「地方裁判所管理局」からのハガキにご注意!

「地方裁判所管理局」から謎の請求ハガキ、弁護士ドットコム記者が電話してみたら…

公的機関を名乗る組織から、身に覚えのない請求が届く「架空請求」が全国で発生している。

弁護士ドットコムニュースの記者のもとに5月中旬、「こんなハガキが来たのだけど」と、東海地方に暮らす高齢の親から連絡があった。ハガキの写真をLINEで送ってもらうと、「特定消費料金未納に関する訴訟最終告知のお知らせ」と題されている。架空請求でおなじみの「地方裁判所管理局」が差出人だ(編集部注:「地方裁判所管理局」は存在しない)。

一体、どんな輩がやっているのか。ご丁寧にも記されていた「お問い合わせ窓口」の電話に連絡することにした。

●電話の主は、ぞんざいな物言いをする若い男

東京03で始まる番号を鳴らすと、3コール程度で、誰かが電話に出る。電話に出たら名乗るのが代表番号の基本だろうが、相手は名乗ることなく沈黙を続けた。

記者が「ハガキが届いたんですが、そちらは」とたずねると、相手は「地方裁判所管理局です」と、早口に名乗る。声から察するに若い男性のようだ。通常、社会人のやりとりでは聞かれない、ぞんざいな物言いをする人物との印象を受ける。

記者「『特定消費料金未納に関する訴訟最終告知のお知らせ』というハガキが届いたんですけど、心当たりがなくて電話しています」 男「名前、生年月日、訴訟番号を言ってください」 記者「名前はちょっと」 男「調べないとわかりませんよ」

彼の言う「訴訟番号」とは、ハガキの右上に書かれた、いかにもソレっぽい番号のことだろう。特定されることを避けるため、ここでは書かないが、実際の裁判でも「平成●年(ワ)第●●号」など事件ごとにつけられる番号がある。

しかし、このハガキの決定的なミスは「平成●年」にあたる年号表記がないことだ。法曹、裁判の経験がある人ならば、怪しいとピンとくるだろう。

●男が語った「地方裁判所管理局」の正体

男とのやりとりに戻る。

記者「そもそも、地方裁判所管理局ってどういうところですか」 男「全国の地方裁判所に届いた訴状を管理する場所です。東京の霞が関の弁護士会館の隣にあります」

弁護士会館は、確かに霞が関にある。しかし、隣は東京家庭裁判所、裏手側に東京地裁・高裁があり、道を挟んで厚生労働省などが入る中央合同庁舎という立地だ。

また、ハガキに記された「地方裁判所管理局」の住所は、弁護士会館の住所である。これでよく「隣にある」と言えるものと呆れるばかりだ。

●苛立ち始めた男

相手の男は、記者の質問に警戒したのだろうか。「ちょっと待ってください」と言って保留音に切り替えられた。ともに詐欺をはたらく仲間と対応を協議したのだろう。約2分後「お待たせしました」と言って、先ほどの男の声が聞こえてきた。

質問を続ける。

記者「ハガキには『契約会社、ないし運営会社から契約不履行による民事訴訟として、訴状が提出されました』とあるのですが、そもそも何の契約なのか、どの会社なのか身に覚えがないんですよ」 男「では、役所とか家族に電話するとかしてください」

記者「役所ってどこですか。どこの役所に電話すればいいんですか」 男「役所は役所ですよ。あなたが住んでいるところでしょう」 記者「区役所ですか。区役所のどこに聞けばいいんですか」 男「だから、役所だって言ってるでしょ」

男は苛立ちはじめたようだ。語気が荒くなってくる。

●「あんた警察だろ」「頭が悪いんですね」「馬鹿野郎」

突然、電話を切られることを想定し、最後の質問に切り替えることにした。

記者「テレビで見たんですけど、こういうハガキで詐欺をやってるってみたんですよ。このハガキも詐欺なんですか?」 男「まわりのお友達に聞いてくださいよ。さっきから周りが賑やかで、誰かがいる様子が伝わってくるんですよ」

記者「怪しいから聞いているんですよ」 男「あんた警察だろ。友達に聞けばいいだろ」

記者「いや違いますよ。質問に答えてくださいよ」 男「あんた頭が悪いんですね。頭が悪いんですよ。バカヤロウ」

もう少し、手の込んだ詐欺トークを披露すると期待したが、実際には「頭が悪い」と連呼し、最終的には「バカヤロウ」と言い捨てるだけだった。

この間、約5分。流行りの手口というには、あまりに稚拙。それが電話から受けた印象だ。

●身を守るためには?

実際に送られてきたハガキを、ある弁護士に見せたところ「架空請求って、まだあるんですね」と、ため息をついた。「それにしても法律用語がめちゃくちゃ。取り下げ最終期日という言葉もないし、地方裁判所管理局なんて組織は存在しないですよ。訴状を管理するのは提出された各裁判所に決まっているじゃないですか」と、一笑に付す。

しかし、法律に馴染みがなければ、このハガキを真に受けてもおかしくはない。ハガキが届いた記者の親は、身に覚えはないものの不安を感じたようだったし、記者も一瞬、身構えてしまった。法律用語を装ったインチキ用語を並べた文面にも、それなりの巧みさがあるのだ。

架空請求は近年、急増している。

独立行政法人「国民生活センター」によれば、「地方裁判所管理局」からの架空請求に関する相談は、2018年度(2018年4月〜2019年3月)に急増し、この年だけで8212件にのぼった。19年度に入ってからは5月21日までに1128件、寄せられているという。

「地方裁判所管理局」以外の公的機関を思わせる組織からも、「総合消費料金に関する訴訟最終告知」「消費料金に関する訴訟最終告知」などの名目で送りつけられているようだ。ハガキに記された番号に連絡し、言われるがままお金を支払ってしまう被害も発生している。

同センターは「年間90〜100万件くらいの消費生活相談が全国から寄せられるが、そのうちの約20万件が架空請求に関する相談です。高齢者だけでなく、幅広い世代が被害にあっています」と注意を促す。

身を守るために、どうしたらいいのか。

国民生活センターの担当者は「架空請求の窓口の電話番号に『絶対に連絡しないで』ということにつきます。ハガキが届き、怖くなる気持ちはよくわかりますが、連絡することで更なる被害につながる危険もあります」と呼びかける。

こんなハガキが届いたら、誰にとっても一大事だろう。滞納や金銭トラブルを抱えていれば、人には言いづらい事柄だけに応じてしまう可能性もありそうだ。日ごろから、流行の詐欺について家族や友人と話題にすることなどで、架空請求への心構えを養っていきたい。

(弁護士ドットコムニュース)

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