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泥酔おじさんの不法侵入、「記憶がない」と言い訳しても無意味なワケ
写真はイメージです(polkadot / PIXTA)

泥酔おじさんの不法侵入、「記憶がない」と言い訳しても無意味なワケ

「他人の家に侵入し、現行犯逮捕されてしまいました。酔っぱらっていたので、記憶はまったくありません」。弁護士ドットコムに、このような相談が複数寄せられています。

ある相談者は、住居侵入と器物損壊の疑いで逮捕されました。泥酔していたため、侵入したことや何か物を壊したことについては覚えておらず、被害者のこともまったく知らないそうです。

相談者は、被害者に謝罪し、被害を弁償したいと考えています。このような場合でも、刑罰は科されてしまうのでしょうか。刑事事件に詳しい星野学弁護士に聞きました。

●「記憶がない」という弁解は「あまり意味がない」

ーー刑法39条は「心神喪失者の行為は、罰しない」と定めています。相談者が「酔っぱらっていた」という事情は考慮されるのでしょうか

「私自身は、『酔っぱらっていたので、記憶がまったくない』という弁解はあまり意味がないと思っています。

お酒の影響で自分がなにをしたか分からない状態は『心神喪失(責任無能力)の状態』として、無罪を主張する理由になりそうです。責任能力があるか否かは行為時について判断されます。

これに対して、記憶がないという弁解は、『一晩寝たら、自分のやったことを忘れてしまった』というものにすぎない場合が多いといえます」

ーー酔っぱらっていたとしても、判断能力があったと評価されてしまうのですね

「判断能力がなくなるくらいお酒を飲めば、お酒の影響で動けなくなっているか、他人の家の玄関前で『俺だ!入れろー!』などと騒いでいるようなケースが多いと思います。

住人に気づかれずに他人の家に入った場合は、みつからないように考えて行動していることになりますので、判断能力が失われているとはいえないはずです。むしろ、のぞきなど何らかの意図をもって他人の住居に入った、すなわち住居侵入罪が成立すると評価されるケースが多いでしょう」

●「謝罪すればセーフ」とはならない

ーー他人の家に入り、物を壊してしまった場合、謝罪と被害の弁償をすれば、刑罰を回避することはできるのでしょうか

「もちろん、住人が謝罪と被害弁償の申入れを受け入れてくれれば、刑罰が科される可能性は低くなります。しかし、刑罰が科されないとは言いきれません。

謝罪をすれば刑罰が科されないとなると、犯罪者としては、『捕まらなければ当然セーフ、捕まっても謝罪すればセーフ』ということになり、『アウト』になるケースがなくなってしまうからです」

ーー刑罰を回避できるかどうかは、ケースバイケースなのですね

「たとえば、お酒の影響で、かつて自分を叱った上司に文句を言おうと思い立ち、上司の家に入ったというようなケースでは、謝罪と被害弁償をして許してもらえれば、刑罰を回避することができるでしょう。

でも、お酒を飲んでは住居侵入を繰り返しているような場合には、謝罪・被害弁償だけではなく、断酒に向けて医療機関の協力や家族の支援などが必要になる場合もあります」 

●前科・前歴が多いと、刑罰の回避は困難に

ーー逆に、刑罰を科されてしまうのは、どのような場合でしょうか

「たとえば、住居に侵入して女性に性的暴行を振るった前科が複数あり、自分の家とは似ても似つかない遠く離れた一人暮らしの女性宅に侵入した場合などは、『酔っていた』と弁解しても、刑罰が科されるケースが多いでしょう。

この場合、捜査機関は、まず強盗・強制性交などを計画して住居に侵入したと考えます。しかし、これらの未遂罪として処罰する証拠がみつからなかったとしても、少なくとも住居侵入罪にはあたるとして、できるだけ刑罰を科すための対応を取ろうとするのです。

もっとも、ほかの凶悪犯罪をおこなう目的がなかったとしても、のぞき目的などで多数の住居侵入を繰り返しているケースや、執行猶予中だったり、前科・前歴が多くあったりする場合には刑罰を回避することは困難となります」

●「節度ある飲酒を」

ーー年末が近づくにつれ、お酒の席が多くなります。より気をつけた方がよさそうですね

「お酒の影響から気が大きくなり、犯罪をおこなって逮捕されてしまいますと、たとえ謝罪や被害弁償をして刑罰が科されなかったとしても、今まで築いてきた社会的信用や職を失うケースが少なくありません。お酒を飲む人は、節度ある飲酒を心がけましょう」

(弁護士ドットコムニュース)

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

プロフィール

星野 学
星野 学(ほしの まなぶ)弁護士 つくば総合法律事務所
茨城県弁護士会所属。交通事故と刑事弁護を専門的に取り扱う。弁護士登録直後から1年間に50件以上の刑事弁護活動を行い、事務所全体で今まで取り扱った刑事事件はすでに1000件を超えている。行政機関の各種委員も歴任。

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