小学生に人気のスマホアプリ「ポケコロ」で知り合った小学生の女児に、裸の写真を送信させたとして、茨城県の公立小学校講師の男性が11月中旬、強制わいせつと児童ポルノ禁止法違反(児童ポルノ製造罪)の疑いで、警視庁に逮捕された。
警視庁によると、男性は今年9月、東京都内の小学4年生の女児(9歳)が13歳未満であることを知りながら、裸の写真を撮影させて、自分のスマホに送信させた疑いが持たれている。小学6年生の女児になりすまし、ポケコロの掲示板を通じて、被害女児と仲良くなったという。
逮捕容疑の「強制わいせつ」は、暴行または脅迫を用い「わいせつ」な行為をする罪だが、13歳未満の場合、暴行または脅迫は不要となっているため、今回の場合、「わいせつな行為」だったかどうかが、ポイントになる。
相手に接触せずに、裸の写真を送らせることも、わいせつな行為となってしまうのか。奥村徹弁護士に聞いた。
●被害者に接触しない場合でも「強制わいせつ」とされたケースがある
「前提として、最高裁大法廷判決(平成29年11月29日)を契機にして、強制わいせつの『わいせつ』の定義について、最高裁判例がないことが確認されています。
高裁レベルではこれまで、『いたずらに性欲を興奮または刺激させ、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの』とか『性的自由を侵害する行為』とされていましたが、定義が定まっていません。
過去の裁判例を見ると、被害者に接触しない場合でも、強制わいせつとしたケースがあります。
・婦女を無理矢理裸にして写真撮影をする行為(東京地裁昭和62年9月16日)
・男女に性交を強要する行為(釧路地裁北見支部昭和53年10月6日)
・コンビニのトイレのドアを開けて用便中の姿態を凝視する(釧路地裁平成14年2月28日、福井地裁平成23年2月16日)
被害者自身に裸体を撮影・送信させる行為については、
・東京地裁平成18年3月24日(欺罔)
・徳島地裁平成22年9月9日(13歳未満)
・大分地裁平成23年5月11日(脅迫)
・東京地裁平成27年12月15日(脅迫)
・高松地裁丸亀支部平成29年5月2日(13歳未満)
・札幌地裁平成29年8月15日(13歳未満)
などで強制わいせつとされていますが、上訴されたものはなく、『わいせつ行為』に該当するという判例はありません。そもそも判例上『わいせつ』の定義がないので、流動的です」
●児童も「児童ポルノ製造罪」の主体とされることも
児童本人が「児童ポルノを製造した」といえないのだろうか。
「児童ポルノ製造罪(同法7条3項、4項、7項)は、主体から児童自身が除外されていないので、児童自身が児童ポルノを製造する場合もありえますが、児童に頼んで裸体画像を撮影・送信してもらう場合(sexting)には、頼んだほうだけを処罰して、頼まれた児童は処罰しない運用になっています。
ただし、児童自身に任意性がある場合には、児童も製造罪の主体とされることもあります(神戸地裁平成24年12月12日)。
強制わいせつとなったケースは、いずれも、欺罔・脅迫・思慮不足などから、児童が犯人の意のままに動く状況(道具)となっているもので、児童に製造行為の主体性を認めることが難しいものです」
運用でクリアされているようだが、法律として問題はないのだろうか。
「児童ポルノ製造についてみれば、児童を保護するという趣旨の法律でありながら、児童が犯人になりうるという法文の形式となっています。被害申告を抑制することになり、思慮に欠けると思います。
現在、児童ポルノの最大の供給源は、児童による『自画撮り』となっています。各地の条例で、自画撮りを要求する行為を処罰する動きがありますが、本来国法の守備範囲である児童ポルノについて条例で規制するというのは、越権となるおそれもあります。
児童も製造罪の主体になるという法律の法文との整合性も問題になるので、国法レベルで改正の議論をすべきだと思います」