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カンニングで「偽計業務妨害罪」に問われることも…被害者は主催者、他の受験者?
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カンニングで「偽計業務妨害罪」に問われることも…被害者は主催者、他の受験者?

テストでは良い点を取りたいし、合格したい。しかし、だからといって不正行為に手を染めてしまうと、取り返しのつかないペナルティを受けることになる。

単位を落としたり、停学処分になったりすることは珍しくないし、時には警察沙汰になることも。今年7月には、国家試験で集団カンニングをしたとして、運送会社の社員ら9人が偽計業務妨害容疑で書類送検されている。

カンニングに倫理的な問題があることは間違いないが、法的にはどう扱われるのだろうか。カンニングは犯罪なのか、泉田健司弁護士に聞いた。

●関与した人数がポイントになる場合も

昔から替え玉受験や、他人の答案を盗み見たり、カンニングペーパーを仕込んだりと、試験での不正行為は多岐にわたります。

しかし、たとえ不正行為が発覚しても、犯罪として処罰されるのは、ごくわずかな事例だけでしょう。犯罪として処罰するには、警察が動く必要がありますが、学内テストで個人がカンニングしても、内部の処分で終わるでしょうし、大学受験や資格試験でも、1人の受験生がカンペを用いたくらいでは、警察沙汰までにはしないからです。

一方、今年7月に起きた国家試験での集団カンニングの事例では、9人も関与しています。試験への影響を重く見た主催者が警察へ相談したのだと思います。

また、私の母校である京都大学の試験中に、とある受験生が「Yahoo!知恵袋」に問題を書き込んで、「偽計業務妨害罪」に問われたことがありました。この事例では、試験中に、問題をインターネット上で誰もが閲覧できる状態にしたことによる影響の大きさが問題視されたのだと思います。

ところで、「偽計」とは人を欺いたり、誘惑したり、人の無知や錯誤につけ込むことをいいます。ただ、「偽計」の意味はとても広く、弁護士でも大変わかりにくい部分があります。たとえば、無差別殺人予告をして警察に警戒活動をさせることも「偽計」なら(東京高等裁判所平成21年3月12日判決)、970回のいたずら電話が「偽計」と判断されたこともあります(東京高等裁判所昭和48年8月7日)。

ちなみに、この受験生はその後、少年審判となり、裁判所が非行事実を認定しています。結局、反省が認められ不処分となったようですが、テストでのカンニングは犯罪として処罰の対象になり得るということです。

「偽計業務妨害罪」の場合、被害者は「試験の主催者」になります。読者の皆さんの中には、真面目に取り組んだ他の受験生が一番の被害者だと感じる方もいらっしゃるでしょう。しかし、実際のところ、他の受験生を被害者とする犯罪の成立は考えにくいのです。かといってまったく処罰しないのでは社会正義が実現できませんよね。そこで、事の本質からはちょっとずれているかもしれないけれど、試験の不正行為に対して「偽計業務妨害罪」という聞きなれない罪名を適用することになるのです。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

泉田 健司
泉田 健司(いずた けんじ)弁護士 泉田法律事務所
大阪弁護士会所属。大阪府堺市で事務所を構える。交通事故、離婚、相続等を中心に地域一番の正統派事務所を目指す。

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