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相模原殺傷事件で「措置入院」見直し議論、支援団体「偏見や差別を助長する」と批判
池原毅和弁護士

相模原殺傷事件で「措置入院」見直し議論、支援団体「偏見や差別を助長する」と批判

相模原市の障害者施設で発生した殺傷事件を受け、再発防止のため「措置入院」の見直しを求める意見が相次いでいる。これに対し、全国「精神病」者集団など精神障害者の団体や弁護士らが8月2日、東京・霞が関の厚労省記者クラブで共同会見を開き、「障害者への偏見や差別を助長する」などとして、見直しの中止を求めた。

措置入院とは、行政が自殺したり、他人を傷つけたりする恐れが高い人物を強制的に入院させる制度で、「精神障害者またはその疑いのある者」が対象。今回の事件では、容疑者が2月に殺人をほのめかし、措置入院させられていたことが明らかになっている。容疑者が約2週間で退院していることから、ネットなどでは「退院させなければ、事件は起きなかった」という意見が続出。政府や自民党でも、制度の見直しを検討することが決まった。

これに対して、5つの団体は会見で、今回の事件は極めて例外的なものだと主張。退院要件の厳格化や退院後の監視などを求める風潮は、「障害者は生きる価値がないなどと主張する、容疑者の思う壺だ」と批判している。

●今回の事件を前提にすると歪んだ制度になる

各団体によると、今回の事件によって精神障害者がこれまで以上にひっそりと生活することを余儀なくされているという。周囲から危険視されていると感じ、勤務や通所ができなくなるなどの事例も報告されているそうだ。

精神障害の問題にくわしい池原毅和弁護士は各団体の意見を総括して、「事件の原因に措置入院制度の不備があったという想定は、控えめに言っても時期尚早だろう」と語る。報道などによると、容疑者に精神障害があったかどうかはまだはっきりとしていない。

また、池原弁護士は容疑者がそもそも措置入院の対象ではなかった可能性も指摘する。容疑者が対象でなかったのなら、措置入院を見直しても再発防止には効果がない。

「容疑者の言動について専門家に意見を聞いても、単純に妄想性障害であるとか、大麻による薬物性精神障害だとか、現段階で確定することは非常に難しい。むしろ、かなり疑問があると思います。その点は、極めて短期間で措置入院が終わっていることからも推察される」

制度を見直した場合、影響の範囲も大きい。仮に容疑者が措置入院の対象として相応だったとしても、措置入院は年間およそ7000件あるとされる。退院要件の厳格化など、制度の見直しは、ほかの患者の人権制約にもつながりかねない。池原弁護士は「今回のように極めて特異的で例外的な事件を前提にして制度を考えると、歪んだ制度になる」と警鐘を鳴らしていた。

(弁護士ドットコムニュース)

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