相模原市の障害者施設で入所者ら19人が刺殺され、26人が重軽傷を負った事件で、殺人未遂などの容疑で逮捕された植松聖容疑者(26)が、2月に措置入院させられていたことが報じられている。
報道によると、事件が起きた障害者施設で勤務していた植松容疑者は2月18日、同僚の職員に対して「障害者は生きていてもしかたない。安楽死させたほうがいい」などと話したことから、施設が警察に通報した。警察は、「他人を傷つけるおそれがある」と判断し、相模原市に連絡。相模原市は緊急の措置入院の対応をとった。
入院から12日後の3月2日に、医師が「他人を傷つけるおそれがなくなった」と診断して退院させたという。
この措置入院とは、どんな仕組みだったのか。また、12日後に退院させたことについて、どう考えればよかったのだろうか。大山滋郎弁護士に聞いた。
●どんな手続なのか?
「今回の事件、被害者や遺族のことを思うと、本当にやりきれない気持ちになります。
措置入院というのは、自殺したり、他人を傷つけたりする恐れが高い人を、行政が強制的に入院させる制度です。今回の容疑者も、『障害者を殺害する』などと公言していたため、措置入院されていました」
大山弁護士はこのように述べる。どのような手続きで、入院・退院が決められるのか。
「具体的には、『精神保健福祉法(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律)』という法律に定められています。
措置入院の手続きは、本来、都道府県知事がおこないますが、その自治体が政令指定都市である場合は、その自治体がおこないます。今回、相模原市が手続きをおこなっていたのは、そのためです。
容疑者の男性は、『障害者は生きていてもしかたない、安楽死させたほうがいい』と話したことから、勤務先だった施設側が警察に通報したとのことです。
警察官は、『精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあると認められる者を発見したとき』は、ただちに最寄りの保健所長経由を経て、都道府県知事(その自治体が政令指定都市である場合は、その自治体)に通報しなければなりません。
通報を受けた自治体は、指定医に診察してもらうなどして、その人物が自分や他人に危害を加えるおそれがあると判断した場合は、入院させることができます。
そして、そのおそれがなくなった場合には、ただちに退院させなければならないとされています」
●殺人を公言した人をどう扱うべきか
つまり、今回のケースも、他人に害を加えるおそれがなくなってと判断されて、退院となったわけだ。しかし、その後、凄惨な事件が起きてしまった。
「『こんな人を退院させるなんて、病院は何を考えているのか』と言いたくなるのはよくわかります。
ただ、こういう事案は、2000年以上も前の、中国の歴史にも記載されています。『あいつを殺してやる』と、これ見よがしに剣を研いでいた人の話です。
まわりの人たちは『こういう口だけの人は、本当に実行するわけがない』と楽観視していたのです。ところが、この人は本当に実行してしまいます。考えてみますと、こういう事案が珍しいからこそ、史書に記録されているのでしょう。
一般論としては、『口に出すような人は、かえって実行しない』というのは、9割方正しい判断だと思います。
今回のような例外事例を防ぐために、殺人を公言している人は、ずっと入院させてほしいと、私も思ってしまいます。
ただ、冷静に考えると、それによって全体の9割を占める『口だけ』の人も監禁されることになります。殺人を公言するような『変な人』を、社会がどう扱うべきか、本当に難しい問題だと思います」