貸し出した傘1500本のうち、約1100本が返却されていないーー。3月の下旬に北海道・函館市内で始まった観光客に向けた傘の無料貸し出しサービスで、そんな困った事態が起きている。
このサービスは、JR函館駅をはじめとした計6カ所に配置されたビニール傘を、誰でも自由に使い、返却できるというものだ。北海道新幹線の利用者をはじめとする観光客が急な雨の日でも快適に観光できるように、北海道新幹線新函館開業対策推進機構がはじめた。
ところが、傘を借りたまま持ち帰ったり、宿泊施設に放置したりする利用者が後を絶たず、当初1000本用意された雨傘は、5月の大型連休には約100本にまで減った。5月中旬に新たに500本の傘が補充されたが、現在は約400本に減っているという。北海道新幹線新函館開業対策推進機構は、予想を大幅に上回る未返却の数に困惑しているという。
貸し出し用の傘を返却せず、宿泊施設に放置したり、自分のものにしたりすることに法的な問題はないのか。星野学弁護士に聞いた。
●返さないと、さまざまな罪に該当する可能性
「傘の無料レンタルサービスは,北海道新幹線新函館開業対策推進機構が実施しており、傘の所有権者(持ち主)は同機構となります。
そのため、最初から返すつもりがないのに傘を持っていってしまう行為は、他人の物を盗む行為に他なりません。
したがって窃盗罪が成立します。また、大量の傘を持ち出してレンタルサービス自体を邪魔すれば、業務妨害罪が成立する場合もあるでしょう」
星野弁護士はこのように述べる。では、借りた当初は返すつもりだったが、後になって自分の物にしようと考えて返さなかったり、返すのが面倒になって廃棄してしまうようなケースはどうだろう。
「実際に警察に逮捕されるかどうかはともかく、理論上は横領罪にあたります。
横領というのは、簡単にいえば、自分が預かっている他人の物を、自分の物にしてしまうことです。
レンタルサービスですから、利用者は同機構が所有する傘を同機構から預かっているにすぎません。そのため、傘を返却せず自分の傘として利用することは横領行為にあたります。
また、借りた他人の傘を勝手に放置し、あるいは廃棄することは許されませんので、このような行為もやはり横領となります。
なお、傘を横領した時点で財産的被害が発生しているので、そのあとに傘を放置・廃棄して財産的な被害を発生させたとしても、器物損壊罪など別の罪が成立することはありません。
しかし、放置・廃棄されて所有者に戻らなかった場合には被害の回復がされていませんので、傘が所有者に戻った場合と比較すれば、同じ横領罪でも、より罪が重く評価されることになるでしょう」
星野弁護士はこのように分析していた。