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「問題ないが監視必要」「腰縄しめられた」警察の取調べは適正? 弁護士13人の意見
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「問題ないが監視必要」「腰縄しめられた」警察の取調べは適正? 弁護士13人の意見

警察庁は3月上旬、全国の警察が2015年に行った取り調べ件数が約141万件にのぼり、そのうち不適切な行為が28件あったと発表した。

28件のうち、取り調べ中にコーヒーを与えるなどの「便宜供与」が11件で最多。警察署長らの事前承認を得ずに、深夜や長時間の取り調べをしたケースが8件で続いた。このほか、髪の毛をつかむなど「不必要な身体接触」が4件、「尊厳を著しく害するような言動」も1件あった。

また、取り調べにかかわる苦情は411件あったという。被疑者と接見することも多い弁護士たちは、警察の取り調べについて、どう考えているのだろうか。弁護士ドットコムに登録している弁護士に意見を聞いた。

●「取り調べの仕組みそのものに問題あり」との指摘も

次の2つの選択肢から回答を求めたところ、13人の弁護士から回答が寄せられた。

・警察の取り調べは概ね適正である → 8人

・警察の取り調べには問題が多い → 5人

アンケートに回答した13人の弁護士のうち、警察の取り調べが<概ね適正>としたのは8人、<問題が多い>としたのが5人だった。

<概ね適正>と回答した弁護士のコメントは、「被疑者からは不適正な取り調べを聞いた覚えがない」「取調べ件数が約141万件であることを考えると、概ね適正といえそう」などだった。また、現状は評価しつつも、権力は腐敗するため、監視を続けていく必要があるとする意見もあった。取り調べでは「ある程度対立や衝突があることはやむを得ない」として、弁護士が被疑者のフォローやケアをすることで解消する部分もあるとの意見もあった。

<問題が多い>と回答した弁護士のコメントは、「年に1~2回程度は、苦情申出を行う」「『殊更に不安を覚えさせ、又は困惑させるような言動』は珍しくない」などの体験談に基づくものだった。暴力や暴言の件数は減っているが、取り調べの仕組みそのものが「先進諸国に比べ著しく遅れている」として、「取り調べの可視化」や「弁護人の立ち合い」など、根本的な見直しを求める声もあった。

回答のうち、自由記述欄で意見を寄せた弁護士9人のコメント(全文)を以下に紹介する。(掲載順は「概ね適正」→「問題が多い」の順)

●警察の取り調べは概ね適正

【濵門 俊也弁護士】

調査方法の相当性は別途検討されるべきですが、取調べ件数が約141万件であるのに対し、「監督対象行為」に認定された不適切な行為が28件にとどまるというデータからしますと概ね適正ということはいえそうです。実際、刑事弁護を担当する当職の感覚からしても、問題事例はほとんどなく、概ね適正といってよいかと思います。ただ、「権力は腐敗する」本質がありますので、引き続き心して監視していかねばならないと思います。

【徳永 賢太郎弁護士】

取り調べが被疑者等に対して極めて不利益な事実を供述させるものであることを踏まえれば、ある程度対立や衝突があることはやむを得ないところであり、警察官の対応に被疑者等が不満をことはあったものの、現状私が担当してきた事件についての取り調べはおおむね適切なものであったと思います。被疑者等の不満や不安は弁護人が頻繁に接見に赴いて話を聞き、事件の見通しを踏まえた警察の意図を説明する等、弁護人が被疑者等のフォローやケアをするという観点から解消すべき問題も大いにあるのではないでしょうか。

【小林 芳郎弁護士】

私が被疑者から聞き取った内容の範囲では、概ね適正と思われます。以前は問題事例も多かったと聞いておりますが、弁護士会からの要請やメディアの社会告知等もあり、件数も減っているようです。ただし独自の運用が進むとまた時代が逆戻りする可能性もあり、今後も様々な視点の監視は必要と考えられます。「監督対象行為」をなくすのはもちろんのこと、被疑者の人権に配慮した取調べをするよう監視を続ける必要がありそうです。

【大和 幸四郎弁護士】

ここ数年、私が被疑者段階についての弁護の経験からすると、警察の取り調べは概ね適正であると思います。弁護人に選任されたら、最初の面会の時に、被疑者に対して、「警察の取り調べで、暴行・脅迫その他、不適正な行為があったら、すぐに私を呼ぶか、次回の面会で教えてください」といっております。しかしながら、被疑者からは不適正な取り調べを聞いた覚えがないので、概ね適正に行われているのではないかというのが実感です。

【湯本 良明弁護士】

私がこれまでに取り扱ってきた事案では、自白事件、否認事件いずれにおいても、捜査官からの暴力、威圧的言動、自白強要、長時間の取調べ、深夜にわたる取調べなどの報告を被疑者、被告人から受けたことはない。また、弁護士接見の際にも、非常にスムーズに接見を実施してくれており、接見妨害とみられる対応を受けたことはない。これらのことから、あくまで私の経験のみからの判断であるが、現在の警察の取調べは概ね適正に行われていると思われる。

●警察の取り調べには問題が多い

【髙橋 裕樹弁護士】

多くの取調べの場面では監督対象行為は行われていないものと思われます。しかし年に1~2回程度は、県警本部長宛の苦情申出を行うことがあります。尊厳を害する言動として、被疑者が中学時代にいじめられていた際の呼び名を言われた、「びいびい泣いてんじゃねぇ」と言われた、ということもありました。酷いケースでは、黙秘をしている被疑者の腰縄を、体に食い込むくらい絞められたということもありました。このようなケースは氷山の一角なので、弁護人として直ちに苦情申出を行わなければなりません。

【菅 一雄弁護士】

監督対象行為は概ね少ないが、否認事件で「殊更に不安を覚えさせ、又は困惑させるような言動」は珍しくない。根本的な問題は、日本では逮捕勾留中の被疑者に取調べ受忍義務があるとされ、捜査機関が調書作成をリードし、被疑者の言い分を正確に反映しない自白調書がしばしば作られることである。しかも、自白調書を裁判所は安易に信用しがちである。冤罪防止のためには、取調べ可視化はもちろん、立法論としては弁護人立会権を認めるべきである。その意味で、弁護士の立場としては警察の取調べに問題ありと言わざるをえない。

【安藤 俊文弁護士】

確かに、私の感覚では、最近の取り調べは、一時期指摘されているような暴力・暴言は著しく減少しているように思われます。 

しかし、日本の取り調べは、

(1)全件録音録画されていない点、

(2)弁護人の立ち合いが認められていない点などで、

先進諸国に比べて著しく遅れたものとなっております。人質法の問題も然りです。

日本の取り調べは問題が多いといわざるをえません。

【川面 武弁護士】

この2択での質問方法には問題があります。警察での取調べで、暴行脅迫を伴うような取調べはほとんどなくなったとは言えるでしょう。また多くの警察官は適正な取調べをしていると思います。

しかし、「警察の取り調べは適正である」とまで言い切れる状況ではありません。否認事件でなくても共犯者の多い事案などで、被疑者の加除訂正の申し出を無視することなどは今日でもざらにあるようです。

なお、被疑者の取調べばかりが焦点になっていますが、真に問題があるのは関係者(共犯者、被害者)の取調べの方だと感じます。

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