猪苗代湖で、湖面に浮かんでいた親子らにプレジャーボートが接触し、男の子が亡くなった事故で、操縦していた男性の禁錮2年の実刑が確定しました。
男性は2020年9月、前方の見張りを十分にしないまま、ボートを走らせ、ライフジャケットを着て湖面に浮かんでいた親子ら3人に接触し、小学生の男の子を死亡させるなどしたとして、業務上過失致死傷罪に問われました。男性は1審で禁錮2年の実刑判決を受けましたが、控訴審で逆転無罪判決が出ました。
しかし、10月16日、最高裁で控訴審判決が破棄されて1審の禁錮2年の判決が維持され、10月27日に刑が確定しました。ネット上では、「なぜ殺人罪ではないのか」「あれだけ悲惨な事故だったけれども、結局この禁錮2年で確定なんですか」などと判決について「軽すぎるのではないか」といった声があがっています。
なぜこのような量刑だったのか。簡単に解説します。
●殺人罪にはならないの?
殺人罪(刑法199条)は、人が死ぬと分かっていたり、死ぬかもしれないと認識しつつ、それでもかまわないと考えて行動し、人を死亡させた場合に成立します。
今回、男性は湖面に浮かんでいた親子らに気付かないまま、ボートを走らせていました。
人がいると気付いていない以上、殺人罪に問うことはできません。
不注意で人を死傷させた場合の業務上過失致死傷罪(刑法211条)になります。
●車の事故なら、もっと重かった?
ネット上には、「車の危険運転はあんなに厳罰化されたのに、ボートだと未だに業務上過失(上限5年)しか適用されない今の法律には本当に怒りを感じます。」という投稿もありました。
車の運転中に、危険運転にあたらない不注意で人を死傷させた場合は、過失運転致死傷罪(自動車運転処罰法5条)となり、上限は7年です。
ただ、この法律は自動車と原付にしか適用されないため、今回のような船の事故は、刑法の業務上過失致死傷罪などで裁かれます。
業務上過失致死傷罪の刑の上限は、事故当時、5年の懲役・禁錮でした(現在は「拘禁刑」に一本化されています)。
1回の不注意で何人が亡くなっても、この罪の上限は5年のままで、足し算されるわけではありません。
乗客乗員26人が死亡・行方不明となった知床遊覧船の沈没事故でも、運航会社の社長に言い渡されたのは、上限の禁錮5年でした(社長側が控訴)。
●禁錮2年は軽すぎる?
では、5年の枠の中で、今回の禁錮2年はどのくらいに位置づけられるでしょうか。
司法統計年報によると、2024年に全国の地裁で業務上過失致死傷罪などにより懲役・禁錮の判決を受けたのは49人でした。
このうち44人には執行猶予が付き、実刑は5人だけです。
実刑の5人の刑期は、いずれも3年未満でした。
今回の事故では、検察の求刑は禁錮3年6カ月でした。
1審判決は、被害の結果が重大で、被害弁償の見込みもないことなどを考慮して、禁錮2年の実刑としました。
執行猶予は3年以下の刑なら付けることができるので(刑法25条1項)、禁錮2年は猶予を付けることもできた刑です。
実刑か執行猶予かが分かれる事件では、実刑を選ぶとき、執行猶予を付ける場合より刑期を短めにする傾向が実務にあります。
このようにみてくると、今回の判決は、これまでの相場の中では重い部類に入るといえます。
●5年まであるのに、なぜ5年にしないの?
そうはいっても、相場そのものが軽すぎるのではないか、上限が5年なら5年にすればよいのではないか、と思う方もいらっしゃるでしょう。
たしかに、裁判所が相場を完全に無視するわけにはいきません。同じような事件を起こした人を平等に扱う必要があるからです。
裁判官の好き嫌いや見た目の印象で重くしたり軽くしたりすれば、裁かれる人の間で不公平が生じてしまいます。
しかしその反面、相場は固定されたものではありません。
社会の情勢や人々の意識が変わるにつれて、少しずつ変わっていくものです。
それまでの相場から踏み出して刑を重くするには、具体的で説得力のある理由が必要だとされています(最判平成26年(2014年)7月24日)。
様々な事件で様々な意見が出て議論が尽くされることで、類似の事件の量刑相場が重くなっていく余地はあるでしょう。
小倉匡洋(弁護士ドットコムニュース編集部記者・弁護士)