知人女性の顔を殴るなどしたとして傷害の容疑で逮捕されたアイドルグループ「timelesz」の猪俣周杜さんが勾留されたと報じられました。
報道によると、猪俣さんは9月18日午後10時半ごろ、東京都江東区のコンビニ駐車場に止めた車内で、知人女性(26)の顔を複数回殴り、鼻などにけがをさせた疑いが持たれています。本人は「口論になってパニックになった。手が当たってしまったかもしれない」と話し、容疑を否認しているとされています。
勾留されたことに「厳しすぎるのでは」といった声もありますが、実際はどうなのでしょうか。また、今後の手続きはどう進むのでしょうか。簡単に解説します。
●勾留の条件に「否認」は入っていない
勾留は、起訴するかどうかを決めるまで身柄を留め置く手続きです。勾留自体は刑罰ではありません。
勾留できるのは、罪を犯したと疑うに足りる相当な理由があり、かつ(1)住居が定まっていない(2)証拠を隠す、または(3)逃げると疑うに足りる相当な理由がある、のいずれかにあたり、勾留の必要があるときです(刑事訴訟法60条1項、207条1項)。
単に否認しているからといって、それが勾留の理由になるわけではありません。
そもそも自らの言い分を主張することは被疑者の権利です。
もっとも、実務上、否認していることは、勾留の判断とおよそ無関係というわけではありません。
たとえば、否認している場合に、自白している場合と比べて事案の解明が難しくなるという説明がされたり、その他の証拠とあいまって(2)を裏づける材料になることはあります。
報道によれば、事件は車内に2人だけの場面での話のようです。この場合、2人の供述の内容や、その信用性が大きな問題となります。
本来、供述の食い違いだけで直ちに証拠を隠すおそれありとすることはできません。
しかし私の経験上は、このような2人きりの事件で主張が食い違う場合、釈放すれば相手に働きかけて話を変えさせるおそれがある、と見られて勾留されてしまうケースは多く存在します。
●認めれば「保釈」されるのか
「全面的に非を認め、逃亡や再犯の恐れが無いと判断すれば保釈される」との声もありますが、起訴前の勾留に保釈の制度はありません(207条1項ただし書)。
ただし、勾留の判断への不服申し立て(準抗告)や勾留の取り消しが認められれば釈放され、不起訴になればその時点で出られます。
釈放や不起訴との関係では、被害を受けた人との示談が大きな意味を持ちます。
示談が成立すれば、相手に働きかけて話を変えさせるおそれは小さくなったと見られやすく、釈放につながることがあります。なお、示談の交渉は、ふつう弁護人を通じて行います。
示談に応じるかどうかは相手しだいです。示談金は、私が扱った骨折等のない事案などでは、数十万円程度でしたが、当事者の置かれた状況や社会的影響の大きさによって、条件は大きく変わる可能性があります。
●いつまで続くのか
勾留は、請求した日から10日以内に起訴しなければ釈放されます(208条1項)。
やむを得ない事由があれば、さらに最長10日延長でき(同条2項)、傷害の事件では起訴前の勾留は最長20日間です。
本来、勾留延長にはやむを得ない事由が必要です。
しかし、私の経験上は、多くの事件で勾留延長が行われており、勾留が10日間で延長されないケースの方が少ないように思います。
2024年の統計でも、勾留された人(交通事件などを除く)の7割ほどで延長が請求され、そのほとんど(99.7%)が認められています(検察統計年報2024年の表40)。
●示談ができるかどうかで、今後が変わる
1)起訴猶予の可能性
傷害罪は、被害を受けた人の告訴がなくても起訴できる罪ですが、示談が成立すれば、起訴するかどうかの判断で考慮され(248条)、起訴を見送る「起訴猶予」となる可能性が高まります。
2)略式命令の可能性
示談ができずに起訴されても、報じられているようなけがの程度で、前科もなく、容疑を認めているのであれば、公開の法廷を開かずに罰金を科す略式手続きがとられることが考えられます。略式命令も、有罪の裁判の一つです。
ただ、略式手続きは、本人が異議がないことを書面で示さなければ使えません(461条の2)。
否認を続けたままであれば、検察官が正式な裁判を求める(公判請求)可能性もあります。
3)正式裁判になった場合どうなるか
正式な裁判で有罪となっても、前科がなく、言い渡される刑が3年以下の拘禁刑などであれば、執行猶予を付けることができます(刑法25条1項)。
今回のケースでは、報道されている事情からだけだと、たとえ起訴されたとしても初犯であれば罰金か執行猶予つきの判決となることが多いケースだと思われますが、正式な裁判として公開の法廷で審理されることになれば、芸能人のスキャンダルとしての影響は、さらに大きくなりそうです。
小倉匡洋(弁護士ドットコムニュース編集部記者・弁護士)