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「なぜ通報した」被害者が責められる異常さ…巨人・阿部監督の涙の会見“長女の手紙”代読に感じた違和感
娘への暴行容疑に関する記者会見で、涙ぐむ阿部慎之助氏=6月26日、東京都千代田区(時事通信)

「なぜ通報した」被害者が責められる異常さ…巨人・阿部監督の涙の会見“長女の手紙”代読に感じた違和感

プロ野球・読売ジャイアンツの阿部慎之助監督(47)が、高校生の長女(18)への暴行容疑で警視庁に逮捕・釈放され、球団事務所で記者会見を開いて辞任を表明した。

長女と次女のケンカを止めようとした際、長女から言い返されたことに腹を立て、襟元をつかんで投げ飛ばすなどの暴行を加えたことが確認されているという。

この会見では、阿部氏の代理人弁護士が、長女から報道陣に向けて書いたとされる手紙を代読した。

「私の意思で書いています」という手紙によると、「父にはこのような声明はいらないと言われた」ものの、報道やSNS上で事実と異なる点があったため書いたという。

手紙には「殴る蹴るといった事実はなかった」「父とはすでに仲直りをしている」などの内容のほか、AIからの回答に沿って児童相談所へ連絡したところ、警察がやってきたことに戸惑ったことも記されていた。

一般的な暴行事件やトラブルでは、示談成立後に、被害者が宥恕(ゆうじょ=許すこと)や謝罪受け入れの意思を示す手紙を加害者側が公表するケースもある。

ただ今回、暴行被害を受けた長女の手紙が、父親の辞任会見の場で読み上げられたことについて、違和感を示す声も少なくなかった。それはいったいなぜなのか。

親子間の暴行事案において、被害者保護の観点は十分だったのか。子どもの人権問題にくわしい伊藤和子弁護士に聞いた。(弁護士ドットコムニュース・塚田賢慎)

●「なぜ通報したのか」被害者が責められる社会であってはならない

──今回の事案を受けて、何が最も問題だと感じていますか。

家庭内の出来事であり、外部からは見えない部分も多いことを前提にしなければなりませんが、報道されている内容を見る限り、阿部さんの行為は親による子への家庭内暴力にあたります。

長女は18歳なので、厳密には児童虐待防止法上の「児童」にはあたりません。しかし、それでも実の子への暴行に該当する行為です。18歳未満の次女の面前での暴力によって心理的外傷を与える言動をしたことも含めて考えれば、児童虐待にあたる可能性が高いと思われます。

今回の件で最も問題だと感じるのは、「なぜ通報したのか」と、被害者が責められていることです。

本来は被害を受けた側であるにもかかわらず、「申し訳ない」と思わされ、自ら報道陣に向けて釈明しなければならない立場に置かれ、さらに二次加害まで受けている状況があります。

日本では、毎年およそ50人の子どもが児童虐待によって命を落としています(2017年度は心中以外で52人)。通報できずに亡くなった人も、苦しみを抱え込んだまま声を上げられなかった人も数多くいます。

家庭内暴力では、家庭の生計を担う父親が加害者になるケースが少なくありません。虐待を受けた子どもが告発し、刑事事件化すれば、その後の進路や生活に大きな影響が及ぶ可能性があります。

だからこそ、被害申告が難しいという構造的な問題があるのです。

子どもは守られるべき存在です。たとえ家計を支える大黒柱であっても、暴力を受けているのであれば、自分の命や安全を守るために通報することは当然の権利です。

児童相談所や警察などの公的機関に相談することは、本来、社会として奨励されるべき行為です。勇気を出して相談・通報した子どもを責めるような風潮があってはならないと強く感じます。

●十分に気持ちを整理できたうえで書かれた手紙だったのか

──会見では、阿部氏の代理人弁護士が長女の手紙を代読しました。どう受け止めていますか。

手紙には、「殴る蹴るといった事実はなかった」「私の過度な状況説明で報道内容が事実と異なってしまった」など、自らの通報を後悔しているような記述や、「父とはすでに仲直りをしている」といった父親側にとって有利に働く内容が書かれていました。

もちろん、長女本人が自らの意思で、どうしても伝えたかった可能性は否定できません。

ただ、25日に暴行があり、その後、逮捕・釈放を経て、翌26日には辞任会見がおこなわれるという、極めて短時間の中で、手紙が阿部氏の代理人によって読み上げられたことに強い違和感を覚えました。

長女が、自分の気持ちを十分に整理しきれないまま、会見のタイミングに合わせて手紙を書かざるを得ない状況ではなかったのか、という疑問は残ります。

家庭内には親子の力関係があります。虐待にあたる行為が起きた直後の状況で、あの手紙とは異なることを書けたのか、「父親が許せない」と率直に表現できる環境だったのかは、慎重に考える必要があります。

仮に、父親に対する厳しい内容を書いていたとして、それが本当にあの場で読まれたのかもわかりません。

だからこそ、あの場で手紙を公表すること自体に、より慎重であるべきだったのではないかと思います。

●阿部氏と長女は「利益が対立する関係」でもある

──会見後、朝日新聞は、危機管理広報の専門家の「事実無根の臆測を防ぎ、ファンやスポンサーから一定の理解を得る有効な手段」という評価を紹介する一方で、二次被害のリスクを懸念する指摘も報じました。

危機管理は、短期的な事態の収束のための対応に焦点化されるべきではなく、中長期的な効果も含めた人権尊重の視点から取り組まれるべきです。被害者である長女が責められるという結果を生んだことは真摯に受け止めるべきではないでしょうか。

阿部氏と代理人弁護士は、長女との関係では、利益が対立する立場にもあります。

通常の暴行事件では、加害者側が被害者側に謝罪文や宥恕文言を求めようとしても、アプローチ自体が難しいことも多いです。

しかし親子であれば、ひとつ屋根の下で日常的に顔を合わせる関係です。赤の他人なら断れることでも、親子という関係性の中では断りづらい状況がありえます。

そこに、家庭内の権力関係が作用していなかったのか、当然疑問が残ります。

また、重大な出来事が起きてから、わずかな時間しか経っていない段階で、はたしてこのような形で気持ちを表明させることが、本当に適切だったのか。

手紙には「お父さんとは仲直りした」ことを伝える内容が書かれていました。それ自体は本人の率直な気持ちなのかもしれません。

ただ、人の感情は固定されたものではありません。「あのときは許せた」「でも、時間が経ってから許せなくなった」ということも十分ありえます。

にもかかわらず、社会に向けて手紙を公表することで、長女の被害認識や感情が公的に固定化されてしまう。そのことが、今後の彼女自身を苦しめないと言えるでしょうか。虐待を受けた直後の子どもの心情に、本当に十分配慮できていたと言えるのでしょうか。

「大事になったこと深く反省しております。大変申し訳ございません」との記述もありましたが、暴力の被害者がこのようなことを、加害者である親の代理人を通じて公表したことには衝撃を受けました。

今後も自責感情を内面化したり、通報をためらったりすることがないようにと願います。

●追い詰められる子どもが増えること心配

また、今回の経緯を見て、通報や相談ができずに追い詰められる子どもが増えることも心配です。国には子どもに向けた啓発を強化してほしいです。

今回のケースに直接適用できるものではありませんが、本来こうした場面で重要なのは、子どもの側に立つ中立的な第三者の存在です。

家事事件には「子の手続代理人」という制度があり、選任された弁護士が、両親いずれとも利害関係のない立場から、子どもの最善の利益を守る役割を担います。

子どもは、警察へ通報するだけでなく、自分を支えてくれる弁護士に相談することもできます。

弁護士会には子どもが直接相談できる無料の電話相談窓口があります。たとえば、東京弁護士会でいえば、こちらです(18歳以上も対象としています)。

虐待を受けたばかりの子どもが、自分の気持ちを整理するための時間と、安全に過ごせる空間を確保できること。それこそが、本当の意味での被害者保護ではないでしょうか。

今回の会見は、そのことを改めて社会に問いかけているように思います。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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