安倍晋三元首相の銃撃事件をめぐり、奈良地裁で開かれている裁判員裁判で12月18日、殺人罪などに問われた山上徹也被告人(45)に対し、検察官が無期懲役を求刑したと報じられた。
弁護人は「懲役20年以内」を主張したといい、検察官の求刑どおりの判決が下されるかは現時点でわかりようがない。ただ、仮に無期懲役が確定した場合、山上被告人が将来、刑務所を出る可能性はあるのだろうか。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)
●法律上は「10年で仮釈放」も可能
日本の刑罰には、死刑、懲役、禁錮、罰金などがある。このうち、期間を定めない懲役刑が「無期懲役刑」で、死刑に次ぐ重い刑罰と位置づけられている。
2025年6月に、懲役刑と禁錮刑が廃止されて「拘禁刑(こうきんけい)」という新しい刑罰が導入された。これに伴い、無期懲役刑は今後「無期拘禁刑」として運用される見通しだ。
ただし、無期懲役であっても「塀の外」に出られる可能性が完全に閉ざされているわけではない。制度上は「仮釈放」が認められている。
刑法は、仮釈放の条件について次のように定めている。
刑法28条:拘禁刑に処せられた者に改悛(かいしゅん)の状があるときは、有期刑についてはその刑期の三分の一を、無期刑については十年を経過した後、行政官庁の処分によって仮に釈放することができる。
山上被告人の事件は、拘禁刑の導入前である2022年に起きているため、ここでは条文中の「拘禁刑」を「懲役刑」と読み替える。
つまり、無期懲役刑であっても、刑の執行開始から10年が経過し、本人に「改悛の状」が認められれば、仮釈放される可能性があるということになる。
実際、過去のデータを見ると、1980年代前半までは服役後15年ほどで仮釈放される受刑者も珍しくなかった。
無期懲役受刑者について、仮釈放された数と死亡した数の推移。2024年の死亡者数はまだ公表されていない(クライムインフォのサイトより)
●現実は多くが獄死…2024年はわずか1人
しかし、刑法改正により有期刑の上限が20年から30年に引き上げられたことなどを背景に、近年は30年を超えないと仮釈放が認められない運用が常態化している。
60年以上服役している受刑者もおり、ほとんどが再び「塀の外」に出ることなく獄死しているのが実情だ。
その傾向が顕著に現れたのが2024年だった。最新の「矯正統計年報」によると、2024年に仮釈放された無期懲役の受刑者は、わずか1人にとどまった。
●「出所してくるのが通例」は過去の話
死刑に関する資料をまとめているNPO「CrimeInfo(クライムインフォ)」のウェブサイトによると、記録が残る1966年以降、仮釈放された無期受刑者が「0〜1人」という年は確認できない。
2024年末時点で、全国の刑事施設に収容されていた無期懲役の受刑者は1650人だったことから、無期懲役囚にとって仮釈放がいかに現実味の薄い制度になっているかがうかがえる。
2019年に、大阪府の吉村洋文知事がツイッター(現X)で「日本の無期懲役は、終身刑と異なり、一生刑務所ではなく、出所してくるのが通例」と投稿し、話題になった。しかし、現在の運用を見る限り、そうした認識はもはや当てはまらない。
記者が継続的に取材している受刑者の中には「無期懲役は死刑よりもきつい」「仮釈放がわずかな望み」と語る人もいる。
その年に新たに仮釈放された無期受刑者の平均受刑在所期間の推移(クライムインフォのサイトより)
●「マル特無期」の影響も?
こうした状況から、日本の無期懲役刑は事実上「終身刑」化しているとの指摘もある。
山上被告人は現在45歳。仮に求刑どおり無期懲役刑が言い渡され、そのまま確定する場合、現在の運用が今後も続く限り、少なくとも75歳を超えるまでは出所できない計算になる。
さらに、もう一つの要素として挙げられるのが「マル特無期(まるとくむき)」と呼ばれる通達の存在だ。
これは、1998年に最高検が出した通達のことで、「無期懲役刑受刑者の中でも特に犯情等が悪質な者」を「マル特無期」に指定し、「従来の慣行等にとらわれることなく、相当長期間にわたり服役させることに意を用いた権限行使等をすべきである」として、全国の検察庁に求めたものだ。
通達によると、無期懲役の判決が出た事件について、検察庁は「マル特無期」に該当するかを協議し、指定した場合には、事件の概要や指定理由などをまとめた記録を作成する。
この記録は、仮釈放を申請する刑務所や、仮釈放の可否を判断する地方更生保護委員会から意見を求められた際、検察庁がより慎重な対応をとるための資料として用いられるという。
●仮釈放の審査は遺族の心情も考慮
検察庁がどのような基準でマル特無期を指定しているのかは明らかにされていないが、裁判で死刑が求刑された事件などが対象になっているとみられる。
山上被告人が殺害した安倍氏は、内閣総理大臣を2度つとめ、通算在職日数は歴代最長を記録した政治家だ。検察官は論告で「戦後史に例をみない重大な事件」と述べたといい、事件の社会的影響の大きさから、マル特無期に指定される可能性が出てきてもおかしくはない。
弁護士ドットコムニュースが最高検に開示請求して入手した「マル特無期」に関する通達の一部
報道によると、裁判では安倍氏の妻・昭恵氏の意見として「自分のしたことを正面から受け止め、罪をきちんと償うように求めます」「憎しみとか恨みとか、負の感情をなるべく持ちたくない」などとする内容の書面が読み上げられたという。
仮釈放の判断にあたっては、被害者遺族の意見も聴取される。数十年後、遺族がどのような心情を抱くかも、判断に影響するとみられる。
山上被告人に対する判決は、来年1月21日に言い渡される予定だ。