ラウンドワンジャパン(本社:大阪府大阪市)は5月28日までに、大阪にある店舗のカラオケルームのなかで客による迷惑行為があり、刑事、民事で厳正に対処する方針を示しました。
同社のリリース(同月27日付け)によれば、同月26日午前5時ごろ、「極めて悪質な迷惑行為(カラオケルーム内でグラスに不衛生な行為を行いその様子を動画でライブ配信する行為)」があったといいます。
同社は該当グラスを全廃棄しルームを消毒。また、警察に相談し、配信者に対し刑事・民事の両面で厳正に対処すると表明しました。
詳細は示されていないものの、ネット上では客である配信者がグラスの中に排泄行為をしたとの指摘もあります。これが仮に事実だとすれば、配信者はどのような法的責任を問われるのでしょうか。
●業務妨害罪(刑法233条、3年以下の懲役または50万円以下の罰金)
まず、威力業務妨害罪が成立する可能性があります。
判例には、事務机の引き出しに赤く染めた猫の死骸を入れておいたことが「威力」にあたるとされたケースなどもあります(最決平成4年11月27日)。
本件では、グラスに排泄するというあり得ない行為によって、店舗は現場での処理や、顧客に対する信頼を回復する必要が生じるなど、様々な対応を迫られることになるため、業務を妨害したともいえそうです。
また、軽犯罪法1条1項31号「他人の業務に対して悪戯などでこれを妨害した者」にあたると考えられます(拘留(1日以上30日未満の間、刑事施設に身柄を拘束)または科料(1000円以上1万円以下))。
業務妨害罪と軽犯罪法の区別は、おおざっぱにいえば、業務妨害の程度がひどいものが偽計業務妨害、そこまでではないものが軽犯罪法という処理になっていると考えられます(なお、東京高判平成21年3月12日参照)。
●器物損壊罪(刑法261条、3年以下の懲役または30万円以下の罰金など)
SNSなどによると、問題の配信者はコップを洗えば済むので問題ないと考えていたようです。
しかし、「器物損壊罪」の「損壊」とは、物の効用を喪失させる行為であるところ、これには、物理的な喪失だけでなく、「感情上その物をして再び本来の用に供すること(ができない状態)」にすることも含まれ、食器に放尿する行為も損壊に当たるとするのが判例です。(大判明治42年4月16日)
今回のケースでも、他人が排泄物を入れたグラスは、たとえ洗浄されても使いたくないでしょうから、器物損壊罪が成立します。
●民事上の責任
店側は、配信者に対して、不法行為に基づく損害賠償責任(民法709条)を追及することが考えられます。
不法行為に基づく損害賠償請求では、「故意または過失」「権利侵害」「損害の発生」「因果関係」などの要件が問題となりますが、本件で少なくとも過失は認められますし、以下のような権利侵害・損害の発生・因果関係が認められる可能性があります。
まず、問題となったグラスだけでなく、他のグラスも取り替えることが必要となる可能性があります。「どのグラスか」がはっきりしない場合には、どのグラスも気持ち悪くて使えなくなるためです。
そこで、グラスの交換にかかった費用を、配信者に請求することが考えられます。
次に、店側の売り上げが落ち込んだ場合に、このような下落分の売り上げについて損害賠償請求することも考えられます。
この立証は特に因果関係の立証の部分が難しいのですが、これまでの被害店舗の売上平均からみて、この事件の後に売り上げが大きく落ち込んでいるような場合、店側としてはその差額分を請求することが考えられます。
このような算定や立証の困難性から、企業側が名誉や社会的信用を侵害されたとして、いわば慰謝料のような形で損害賠償を請求することも考えられます(民法710条参照)。