山梨学院大に留学中、当時同じ留学生で、現在日本国内でプロバスケットボール選手として活動している男性から性暴力を受けたとして、20代の外国人女性が5月9日、大学を運営する学校法人と男性を相手取り、計約4100万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。
訴状などによると、性暴力を受けたあと、女性が教員らに被害をうったえたものの、救済措置はおこなわれず、大学側に安全配慮義務違反があったなどと主張している。
この日、原告女性は東京・霞が関の司法記者クラブで会見を開き、性暴力を受けたことで、心身の健康や学業継続に深刻な影響があるとうったえた。
提訴を決意した理由については「(日本は)被害者側に責任を転嫁する風潮が根強く存在します。この現状を変えるために訴訟を提起しました」と語った。
●「国際寮で被害に」
訴状によると、山梨学院大国際リベラルアーツ学部に留学していた女性は2023年2月、学内の国際寮の一室で、被告男性から性暴力を受けた。女性が体調が悪く、寝てしまったところ、同意のないわいせつな行為がおこなわれたという。
目覚めた女性は当初、恐怖のあまり硬直していたが、これ以上ひどい行為をされないよう、部屋から逃げたという。女性は「何か証拠を残さなければ」と考え、自分が受けた性暴力について記録するビデオを残した。
その後、男性からインスタグラムのメッセージ機能で謝罪が送られてきたが、女性は恐怖のあまり返信できなかったという。3日後、女性は第三者とともに男性と面会。男性はあらためて事実関係を認めたうえで謝罪したが、女性は受け入れていないという。
●「大学から保護を得られなかった」
訴状によると、女性は性暴力を受けた直後から、大学のカウンセラーや指導教授らに被害を相談したものの、とりあってもらえなかったとしている。
カウンセラーと面談した際には「大学ではとても対応できない、被害を忘れるように」と言われたという。さらに、指導教授や男性の指導教授にもそれぞれ相談したが、「大学では適正な措置がとられる可能性が低い」などとして、大学側に申告することを事実上阻まれたとしている。
また、別の教授にも相談したが、女性は「bad victim(悪い被害者=被害者に落ち度があるという意味)」であると非難され、「被害として不十分で、事件として成り立たない」と告げられたという。
その後、女性は、大学側から保護を得られず、いつ男性から学内で再び被害に遭うかわからない状況の中、学業継続も困難となり、退学を余儀なくされたとしている。
女性は性暴力や大学から救済を得られなかったことが原因で、抑鬱状態や睡眠障害が続き、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症し、現在もカウンセリングを受けているという。そのため、国内の別の大学に転学したが、休学しているそうだ。
●「日本で性暴力は被害者の自己責任になる」
この日の記者会見で、女性は裁判への思いを次のように述べた。
「被害者が声を上げた瞬間から、そのトラウマ体験は軽視され、人格や信用は徹底的に疑われ、正義を求める道のりは不可能にさえ感じられます。
警察から大学に至るまで、被害者側に責任を転嫁する風潮が根強く存在します。自分に起きたことが『自己責任』であると信じ込まされるのです。
このような対応が『当たり前』となっている現状は言語道断であり、社会的に先進的な日本が、性暴力問題においては時代遅れのままであることは、断じて許容できません。
私は、この現状を変えるため、この訴訟を提起いたしました。性暴力が人生に与える甚大な影響を社会に理解していただくことが目的です」
●「弱い立場の留学生に対する大きな人権侵害」
原告側の弁護団長をつとめる秦(しんの)雅子弁護士は会見で、次のように指摘した。
「大学は学生に対して、安全な環境を提供する義務を負っています。教員からのセクハラだけでなく、学生からであっても、性暴力から守られなければ、学業やキャリアを積むことはできません。
性暴力に遭ったとき、被害者は(心身へのダメージから)活動できなくなります。女性のケースですと、被害に遭ってから2年間、卒業して就職するという機会が失われています。留学生の場合はビザの期限もあり、非常に弱い立場です。これは大きな人権侵害だと考えています」
会見する弁護団(2025年5月9日、弁護士ドットコム撮影)
● 学校法人「現時点でのコメントは差し控える」
大学を運営する学校法人「C2C Global Education Japan」(山梨県甲府市)は、弁護士ドットコムニュースの取材に対して「お問合せ頂きました本法人への提訴の件については、訴状が本法人へ届いておらず、詳細を把握できておりませんため、現時点でのコメントは差し控えさせて頂きます」としている。