セルフレジに大量の1円玉を投入して、不具合を起こすーー。そんな迷惑行為を撮影した動画がSNSで拡散されていると報じられています。
FNNプライムオンラインなどによると、動画には、大量の1円玉を投入したことで、会計後、セルフレジがエラーを起こして止まってしまう様子が映っていました。
同じような行為は他の店舗でも確認されているといいます。
別のセルフレジを映した動画でも「小銭の支払いは20枚まで」との注意書きがありましたが、投稿者は無視して大量の1円玉をセルフレジに投入していました。
店員の対応でレジはすぐに復旧しましたが、返却された1円玉を再び入れるなど、故意に機械の不具合を引き起こしているようです。
このように大量の硬貨を入れてレジに不具合を起こした場合、法的にどのような問題が生じるでしょうか。
●同一硬貨の使用は20枚まで
まず法律によって、同じ種類の硬貨を支払いに用いる場合、その「上限」が決まっています。
「通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律」です。「貨幣は、額面価格の二十倍までを限り、法貨として通用する」と規定されています(7条)。
つまり、1円玉であれば、20円(20枚)までしか支払いに用いることはできないことになります。支払いに用いることができない以上、店側は20枚を超える支払いを断ることができます。
●「偽計業務妨害」か「軽犯罪法違反」のケースと思われる
今回のケースでは、投稿者が1円玉を大量にセルフレジに投入してエラーを起こす、ということを繰り返しています。
機械がエラーを起こすことは十分認識しつつ、1円玉を投入しているようです。また、店員はエラーからの復旧業務をおこなうことを余儀なくされているといえます。
このような事情からは、偽計業務妨害罪(刑法233条:3年以下の懲役または50万円以下の罰金)か、軽犯罪法1条1項31号「他人の業務に対して悪戯などでこれを妨害した者」にあたると考えられます(拘留または科料)。
「拘留」は1日以上30日未満の間、刑事施設に身柄を拘束されるもので、「科料」は1000円以上1万円以下のお金を支払うものです。
偽計業務妨害と軽犯罪法の区別は、おおざっぱにいえば、業務妨害の程度がひどいものが偽計業務妨害、そこまでではないものが軽犯罪法という処理になっていると考えられます(なお、東京高判平成21年3月12日参照)。
偽計業務妨害罪と軽犯罪法の条文(弁護士ドットコムニュース編集部作成)
●器物損壊罪の成立は難しい
なお、「レジを壊した」ということから、器物損壊罪(刑法261条:3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料)になりそうだ、と考える方も多いと思います。
しかし、今回のケースでは、レジの停止は一時的なもので、動画をみると、店員さんが対応してすぐに使用できるように復旧しています。
たしかに、器物損壊罪の「損壊」は、物の効用を害している場合に認められ、物理的に破壊する必要はありません。また、一時的に利用を困難にする場合でも、「損壊」にあたるとされる場合はあります。
しかし、車内に監禁した女性が、外部に助けを求めることを防ぐために3分間携帯電話を取り上げたケースで、器物損壊罪の「損壊」にはあたらないとされた事例があるように(大阪高判平成13年3月14日)、効用を害する時間はある程度継続する必要があると考えるべきでしょう。
今回のように、店員がすぐにレジを再起動できるようなトラブルを起こしたというだけでは、器物損壊罪の成立を認めるのは難しいと思われます。
器物損壊罪の条文(弁護士ドットコムニュース編集部作成)
●民事上の責任
レジを壊してしまったり、故障から復旧させる対応に費用がかかった場合には、当然ですがこれらの費用につき、店は投稿者に損害賠償を請求できます。
一方で、営業利益の損害賠償を請求することは難しいと思われます。
なぜなら、たしかにレジの機能が止まって、利用客の会計に時間がかかるなどの営業上の支障は出ていると思われますが、今回のケースで具体的な売上減少を立証することは非常に難しいと考えられるからです。
そのほかに、迷惑行為をした投稿者を出入り禁止にすることが可能と考えられます。