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「家の壁にコーヒーかけられる」悪質な嫌がらせ、警察に相談も「被害届」受け取ってもらえず…なぜ?
画像はイメージです(zon / PIXTA)

「家の壁にコーヒーかけられる」悪質な嫌がらせ、警察に相談も「被害届」受け取ってもらえず…なぜ?

家の壁に定期的にコーヒーをかけられていて精神的に限界──。こんな相談が弁護士ドットコムに寄せられました。

戸建ての新築に引っ越してきて半年という相談者ですが、引っ越して間もなく家の壁にコーヒーをかけられるという嫌がらせを受けるようになりました。

数カ月で20回以上かけられ、警察も複数回呼んで相談しましたが「コーヒーだけでは被害届出せない」と言われてしまい、いまだに被害届を出せていません。防犯カメラを設置するなどの対策も講じましたが犯人特定には至らず、精神的なダメージも蓄積しているようです。

もし犯人が捕まったら、壁への損害のほか、「防犯カメラの設置費用や警察対応で仕事を休んだ給与分も請求したい」と憤っています。コーヒーを家の壁にかける行為は犯罪ではないのでしょうか。本間久雄弁護士に聞きました。

●建造物損壊罪や廃棄物処理法違反の可能性

──家の壁にコーヒーをかける行為は何らかの犯罪にあたるのでしょうか

家の壁にコーヒーをかける行為が犯罪に該当するとしたら、建造物損壊罪(刑法260条)が考えられます。建造物損壊罪は、「他人の建造物又は艦船を損壊した者は、5年以下の懲役に処する」と定められています。

「建造物」とは、家やビル、駅など屋根があって土地に定着し、人が出入りできる工作物のことをいい、戸建て住宅は、建造物に該当します。

「損壊」とは、物理的に壊すことだけでなく、物の効用を害することをいいます。そのため、建造物の外観や美観を著しく汚し、容易に原状回復できないようにした場合も損壊になります。

ただ、コーヒーをかけても、水をかけたりすれば汚れが落ちる場合が多いと思いますし、たとえシミが残ったとしても、それが外観や美観を著しく汚して「損壊」に該当する程度まで及ぶのかと言われると、一般的には、そこまで至ることはないと思われます。

それゆえ、警察も被害届を受理したがらないのではないかと考えられます。

──建造物損壊罪以外には何か考えられますか

廃棄物処理法違反が考えられます。

廃棄物処理法16条は「何人も、みだりに廃棄物を捨ててはならない」と規定し、違反した場合は、「5年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金(懲役刑と罰金刑は併科可能です)」に問われます(廃棄物処理法25条1項14号)。

廃棄物の定義について、「ごみ、粗大ごみ、燃え殻、汚泥、ふん尿、廃油、廃酸、廃アルカリ、動物の死体その他の汚物又は不要物であつて、固形状又は液状のもの(放射性物質及びこれによつて汚染された物を除く)」とされています(廃棄物処理法2条1項)。

かけられたコーヒーは不要物であり、液状のものであることから、廃棄物に該当します。

したがって、建造物損壊罪で警察が被害届を受理しない場合、廃棄物処理法16条違反で被害届を受理するよう改めて相談をされたらいかがでしょうか。

●修復費用以外の被害請求はどうか?

──相談者(被害者)は、どのような被害請求ができますか。防犯カメラの設置費用や警察対応で仕事を休んだ給与分なども請求可能なのでしょうか

壁にシミができていた場合は、そこの部分を修復する費用を請求することができます。また、長期間にわたって、嫌がらせをされたことに対する慰謝料も請求をすることができます。

防犯カメラの設置費用や警察対応で仕事を休んだ給与分が請求できるかが問題となりますが、これはコーヒーをかける行為と各損害との間に相当因果関係があるか否かで判断をされることになります。

一般的には、防犯カメラの設置は、犯罪抑止に有用で汎用性があるため、その設置費用は損害として認められると直ちに言い切ることはできません。

ただ、コーヒーをかけるという嫌がらせが執拗なものであった場合は、必要な調査費用と認められ、犯行と相当因果関係のある損害として認定される可能性があります。

一般的には、行政対応に要する時間・労力は、それ単独では損害として認められず、慰謝料の算定事由として加味されるのが通例です。ただ、犯行の悪質さや複雑さ次第では、警察対応に要した休業損害は、犯行と相当因果関係のある損害として認められる可能性があります。

したがって、防犯カメラ設置費用と警察対応に要した休業損害が認められるか否かは、最終的には、当事者双方の主張立証を踏まえて、裁判所が判断することになります。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

プロフィール

本間 久雄
本間 久雄(ほんま ひさお)弁護士 横浜関内法律事務所
平成20年弁護士登録。東京大学法学部卒業・慶應義塾大学法科大学院卒業。宗教法人及び僧侶・寺族関係者に関する事件を多数取り扱う。著書に「弁護士実務に効く 判例にみる宗教法人の法律問題」(第一法規)などがある。

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