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被害に気付かれにくい「ライブ会場」の痴漢逮捕、人気バンド「ヤバT」が公表…犯人の「特定」どうやった?
満員のライブ会場(※写真は記事本文の内容とは関係ありません)salajean / PIXTA

被害に気付かれにくい「ライブ会場」の痴漢逮捕、人気バンド「ヤバT」が公表…犯人の「特定」どうやった?

ロックバンド「ヤバイTシャツ屋さん」が公式Xで、ライブ中に痴漢行為をしたとされる人物が逮捕されたと明らかにした。

ライブ中の痴漢行為をめぐって、多くのバンドがそれを許さない姿勢を明確にし始めている。観客で混み合う会場での痴漢行為はどのように立証できるのだろうか。弁護士に聞いた。

●「SOS画面」をステージに見せてくれた人がいた

ヤバTの2月6日の投稿によれば、1月23日に開かれた都内でのライブ中に「痴漢行為が発生」したという。

「勇気を持って被害を訴えてくださった方、ならびに情報提供にご協力いただいた皆様のご尽力により、警察の対応を経て犯人が逮捕されました」(バンドのX投稿)

メンバーのこやまたくやさんは、ライブ翌日のXの投稿で、スマホで「SOS画面」をステージに向けて見せた人がいたことから「客席で問題が起きている事に気がつく事が出来ました」と説明し、警察を呼んだことを明かしていた。

ライブ中の痴漢被害をめぐっては、胸を揉まれるなど体を触られる被害が報告されている。ヤバTだけでなく、他のロックバンドからも痴漢を絶対に許さない姿勢が示されている。

「ライブ中に痴漢にあったらもうライブ止めちゃっても良いので助けを求めてください」(「打首獄門同好会」のXから)

また、観客で混み合った会場においても、記録用にカメラを回していることから、行為が映像として残っているとの呼びかけもされた。

「ライブ中に痴漢行為があったようです。最近のライブ中は記録用にカメラを回しているので動画が残っています」(「四星球」の北島康雄さんのXから)

バンドがライブ中の痴漢を許さない考えを明確にして、実際に被害が発生した際に対応してくれることで、ファンも安心してライブに参加できるだろう。ただ、実際に罪に問うことはできるのだろうか。

当然ながら捜査機関側は冤罪のリスクにも細心の注意を払う必要がある。元東京地検検事で、エンターテインメントの分野のトラブルにも詳しい西山晴基弁護士に聞いた。

●「被害に気付かれにくい」悪質性高いと評価されうる

ーー盛り上がった満員のライブ会場。そのような場所での痴漢行為はどのような罪に問われるでしょうか

性加害に対する厳罰化が進んでいます。

これまで痴漢行為は各都道府県の迷惑防止条例違反の罪に問われるにとどまりましたが、現在は刑法に規定される「不同意わいせつ罪」に問われる可能性があります。

実際、これまで条例違反罪に問われていたようなケースでも、不同意わいせつ罪に問われるケースが増えています。

不同意わいせつ罪には法定刑に罰金刑が定められていないので、一発で拘禁刑(2025年6月1日に施行されるまでは懲役刑)が科される重い犯罪行為です。

しかも、ライブ会場での痴漢行為は、みんなで楽しむ場所で、被害に気付かれにくく、被害の声を上げにくい状況を利用した犯行といえます。刑事裁判になれば、より悪質性が高いと評価される可能性もあります。

●罪に問うには「犯人」を特定する必要がある

ーー会場で痴漢された客が「この人にやられた」など、特定の客による行為だとうったえた場合、捜査機関はどのように立証するでしょうか

まずは、被害者の証言、警備員やスタッフ、周囲の客の証言、ライブ会場に入ったカメラの映像などから犯人と思われる人物を探っていくことになります。

そのうえで、この犯人だと思われる人物が誰であるかどうかを特定しなければなりません。

近年は、チケット転売規制と相まって、入場時のIDチェック(本人確認)の厳格化、電子チケットの普及が進んでいますので、入場時の履歴といった情報から犯人を特定していくことが考えられます。

さらには、会場周辺の防犯カメラ映像をつないで確認していく「リレー捜査」をおこなったうえで、犯人と思われる人物が利用した駅や店などがあれば、そこでの入場履歴や決済履歴を精査することも考えられます。

●警察が逮捕に踏み切った背景は?

ーーヤバTの報告によれば、「警察の対応を経て犯人が逮捕」とあって、数日たってからの報告だったこともあり、後日警察が痴漢をしたとされる人を逮捕したようです。どのような状況だったと想定されるでしょうか

逮捕は、(1)逃亡のおそれや(2)罪証隠滅のおそれがあり、逮捕の必要性があると判断された場合におこなわれます。

特に(1)「逃亡のおそれ」との関係では、痴漢行為の悪質性が高い、犯人が痴漢行為を否認している、犯人の身元が不安定である、などの事情があったことが想定されます。

また、被害者の処罰感情に加え、主催者側である運営会社やアーティストの「犯人を許さない」という声も、警察が逮捕に踏み切る後押しになったのではないかと思われます。

みんなで楽しんで、盛り上がるライブ会場が、ファンを苦しめる場になってしまっては悲しいことです。

ライブ会場内の警備等を強化することはもちろんですが、近年の動きのように、ライブ会場での痴漢行為が、重い犯罪行為であって、「自分だとバレないだろう」などという甘い考えは通用しないこと、そして逮捕され裁判になる可能性も十分にあることなどを強くうったえ、痴漢行為をさせないようにしていくことがとても大切なのではないかと思います。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

プロフィール

西山 晴基
西山 晴基(にしやま はるき)弁護士 レイ法律事務所
東京地検を退官後、レイ法律事務所に入所。検察官として、東京地検・さいたま地検・福岡地検といった大規模検察庁において、殺人・強盗致死・恐喝等の強行犯事件、強制性交等致死、強制わいせつ致傷、児童福祉法違反、公然わいせつ、盗撮、児童買春等の性犯罪事件、詐欺、業務上横領、特別背任等の経済犯罪事件、脱税事件等数多く経験し、捜査機関や刑事裁判官の考え方を熟知。現在は、弁護士として、刑事分野、芸能・エンターテインメント分野の案件を専門に数多くの事件を扱う。

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