「ルフィ」や「キム」などと名乗る指示役のグループによる広域強盗事件で、強盗致死などの罪に問われた実行犯の一人、加藤臣吾被告人(26)に対する判決公判が12月16日、東京地裁立川支部であった。
岡田健彦裁判長は「通信アプリを通じて形成され、統制された犯罪集団による徹底した役割分担の下、被害者二人に対して生命にかかわる重大な結果を生じさせた」などとして、無期懲役(求刑も同じ)を言い渡した。
この日の法廷で、上は紺色の長袖、下は黒のスウェット姿で証言台の前に立った加藤被告人は、最後まで一言も口を開かず、静かに判決理由を聞いていた。その罪の重さに耐えられないのか、呆然しているようにも思えた。(ライター・渋井哲也)
●被害者をバールを持った共犯者がいる地下室へ連れて行った
起訴状などによると、加藤被告人は「ルフィ」や「キム」などと名乗る指名不詳者の指示を受けて、3つの事件に関わって、強盗致死や強盗渉外、強盗予備、住居侵入の罪に問われた。
・2022年12月に広島市の高級時計店から現金などが奪われた「広島事件」
・2023年1月に東京・狛江市の住宅で90歳の女性が殴られて死亡した「狛江事件」
・狛江事件翌日に共犯者同士で相談して、東京・足立の住宅に侵入しようとした「足立事件」
判決によると、広島事件では、リーダー役の永田陸人被告=一審で無期懲役・控訴中=らと共謀のうえ、2022年12月21日夜、宅配業者を装って被害者Aさん(当時75歳)に店舗兼自宅の玄関ドアを開けさせた。
そのうえで、Aさんの右足を踏みながら、体を仰向けに押し倒し、玄関から侵入。その後、Aさんの口と鼻を手で押さえつけた。結果として、このグループは、現金250万円と腕時計137点(時価総額で約2439万円相当)を奪った。
この際、Aさんと夫に全治2週間のケガをさせた。また長男は高次脳機能障害などが見込まれる意識障害を伴う脳挫傷などのケガをさせた。
狛江事件では、2023年1月19日11時30分ごろ、東京・狛江市の住宅に玄関ドアから突入する役割を担当した。犯行中は、共犯者とともに、両手首を結束バンドで縛られたDさん(当時90歳)をバールを持っている永田被告人がいる地下室へ連れて行った。
そのうえで腕時計など(時価合計約59万円)を奪った。その際、Dさんにケガを負わせて、外傷性ショックで死亡させた。判決は「高齢で緊縛されたDさんを連れて行けば、現金等の在処を聞き出すためにDさんの生命・身体が危険にさらされることは容易に想像できる」と指摘している。
●被害者遺族「私は殺人だと思っています。犯人には恨みしかない」
加藤被告人は、公判が始まるまで「(狛江事件の)被害者には触っていない」と供述していたが、その後、証言を変更した。被告人質問で理由をこう述べている。
「被害者をバールで殴ったわけではないので、他の共犯者と一緒にされなくなかった。自分がウソをついて、事件を混乱させたくなかった。弁護人にも言えなかったのは、ウソをついていた手前、言えずにいた。正直に話すことが、被害者への償いの一歩になると思った」
一方、狛江事件の遺族は、被害者参加代理人を通じて意見陳述をおこなっている。
「(被害者)Dの遺体は、ドラマのような安置所ではなく、狭いスペースで布が一枚かけられていました。なかなか遺体に触れられず、現実を受け入れられないでいました。私は泣けなかった。魂だけが体から抜けた感じでした。
バールで20カ所以上殴られたとき、父はすでに20年以上前に亡くなっていますが、『お父さん、助けて』と言ったそうです。被告人質問での発言を弁護士さんから聞き、反省していないと思いました。私は殺人だと思っています。犯人には恨みしかない。極刑にするしかない」
●「インターフォンは押していない」という主張も
足立事件では、永田被告人らと1月20日午前11時ごろ、埼玉県草加市のコンビニの駐車場で、狛江事件で使用したバールと宅配用段ボール、結束バンドなどを載せた車に乗り、足立区のEさん宅付近に向けて出発した。
11時20分ごろから35分ごろまでに間、Eさん宅付近で人の出入りを確認した。その後、1時15分ごろから50分ごろまでの間に、Eさん宅の一階食堂の窓をバールで割り、施錠を外した。そして、押し入れを開けるなどの物色をするが、金品を発見できなかった。
足立事件に関して、加藤被告人は「インターフォンを押していない」と主張していた。以下は、被告人質問でのやりとりだ。
弁護人:共犯者の証人尋問では、音が何回も聞こえたと言っていますが…。
加藤被告人:触れてはいるが、インターフォンを押していない。
弁護人:どうして押していない?
加藤被告人:永田は強盗に執着していた。もし、人が中にいなければ事件を起こさないで済む。不在と言えばいい。そのため、(Eさん宅での犯行について)一回目は中止になった。
弁護人:(Eさん宅での犯行について)二回目は?
加藤被告人:このときもインターフォンを押していない。しかし、強盗をやめて、空き巣をすることになった。
弁護人:中に人がいるかもしれないが…。
加藤被告人:そこまで考えていなかった。
●裁判所「自己の利益が大きくなるように共犯者を利用した」
東京地裁は「(共犯者の二人が)それぞれインターフォンの音を聞いたと明確に証言しており、勘違いとは考えにくい」「永田被告人が指示役に対して、加藤被告人がインターフォンを押したことを前提とするメッセージを送信していた」などとして、共犯者の証言は信用できるとした。
また、直前まで、盗品の一部を指示役に知られないように永田被告人と中抜きしようとしていたことなどを踏まえれば、犯行に積極的な態度を見せていたとして、加藤被告人の証言を信用できないと判断した。
最終弁論で、弁護側は、現場リーダーではないこと、一部積極的な関与はあるものの「キム」に脅されるなど、全体としては積極的な関与ではないなどとして、有期懲役刑が相当であると主張していた。
しかし、判決は「深刻な被害結果をもたらした一連の犯行に主体的、積極的に参加し、徹底した役割分担の下で、自己の利益が大きくなるように共犯者を利用、補充した側面もある」「責任は、実行役のリーダーである永田被告人との間に差があっても、これに次ぐもので、それ自体が重大というべき」として、検察側の求刑通り無期懲役とした。
加藤被告人は、判決を不服として東京高裁に控訴した。