東京・渋谷区のラーメン店で「髪の毛が入っている」とうったえる男性客が現れた。しかし、店の防犯カメラには、自分の髪の毛を入れているような行動が映っていた。
トラブルにあった「辛麺華火渋谷店」の店長は、弁護士ドットコムニュースの取材に対して、この客は数カ月前にも「ゴミが入っていた」などとクレームを入れてきた人物だと明かした。当時は飲食代を受け取らなかったという。
しかし、11月20日、再びクレームがあった。髪の毛の混入を指摘された店側が「前もあって2回目ですよね」と"自作自演"を指摘すると、男性は退店したという。ラーメンはほぼ食べ終えた状態だったそうだ。
店は防犯カメラの映像をXに投稿。「カメラを確認したところ自ら異物を混入させておりました」と注意喚起した。
さらに「カスタマーハラスメントは許せない」として警察にも相談しているが、このような行為は「カスハラ」ではなく、犯罪ではないのだろうか。吉田要介弁護士に聞いた。
●「業務妨害罪」が検討される。もし「無料」を迫ったりしたら「詐欺罪」が検討される
——自らの髪の毛を入れたうえで大声で脅すような横暴な行為は、どんな罪に問われる可能性がありますか
そのような行為は、店員の自由意志を制圧するに足るものといえ、威力業務妨害罪(刑法234条)の「威力」にあたり、お店の業務を「妨害」するものですので、威力業務妨害罪が成立すると思われます。
そもそも、自作自演でなく、単に髪の毛が混入していた場合でも、必要以上に大声で脅すような横暴な行為をおこなえば、やはり威力業務妨害罪が成立すると思われます。
一方、自らの髪の毛を入れたうえで、大声で脅すような行為以外の方法で、クレームを入れた場合は、威力以外の不正な手段(偽計)を用いて、お店の業務を「妨害」するものとして、偽計業務妨害罪(刑法233条)が成立する可能性があります。
——自らの髪の毛を入れたうえで、無料にするように迫ったり、追加で賠償を求めたりすると、どのような罪に問われる可能性がありますか
自らの髪の毛を入れたうえで、店側にラーメン代を無料にするように迫ったり、追加で賠償を求めたりする行為は、相手を錯誤に陥いらせ、無料にさせるなどの行為(財産的処分行為)をさせるものであり、人を欺く行為といえます。
この行為によって、無料にさせたり、賠償を得た場合は、人を欺いて、財産上不法の利益を得たといえるので、詐欺既遂罪(無料にさせた場合は刑法246条2項、さらに賠償を得る場合は246条1項)が成立すると思われます。
途中で店員が気づいて、ラーメン代が無料にならず、賠償も得られなくても、詐欺未遂罪(刑法250条、246条1項もしくは2項)が成立する可能性があるでしょう。
なお、ラーメン代を無料にしたり、賠償をしようと思ったことが、錯誤に基づくものではなく、畏怖に基づく場合は、詐欺罪ではなく、人を「恐喝」して、「財産上不法の利益を得」たとして恐喝罪(刑法249条1項もしくは2項)が成立するというのが判例です。