千葉刑務所に服役中の無期懲役囚が今年、刑務官をノミで複数回突き刺す事件を起こしていたことが受刑者らへの取材で判明した。千葉刑務所はこの事件を公表していないため、矯正関係者の間では隠蔽だと批判する声が上がっている。来年導入される拘禁刑に影響が出ることを恐れているのではないかという疑念も生まれている。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)
●工具点検中の職員を背後から襲う
千葉刑務所は主に、初めて刑務所に入る人で刑期が10年以上の長期刑の受刑者を収容する。無期懲役の判決を受けた受刑者も多く服役している。
千葉刑務所に収容されている受刑者から記者に送られてきた手紙などによると、事件は今年6月11日の昼間に刑務所内の木工製品を作る工場で起きたという。
受刑者が刑務作業で使用する工具を刑務所の職員が点検していたところ、この工場で働く無期懲役囚が突然襲いかかり、隠し持っていた木工ノミで職員の背中などを数回刺した。
その無期懲役囚はすぐに取り押さえられたが、職員は重傷を負ったという。
千葉刑務所(’90 Bantam / PIXTA)
●受刑者トラブルを刑務所が放置したことが要因と疑う見方も
「襲われた職員には非はありません」
手紙を送ってきた受刑者はそう強調するが、千葉刑務所が4カ月経った今もこの事件を公表していないことに不信感を募らせている。
というのも、この受刑者によると、事件を起こした無期懲役囚は以前から作業場の班長(受刑者)から叱責を受けるなどしてストレスをためていたという。
その後トラブルを起こして懲罰を受け、関係が悪い班長がいる工場に戻ることを拒否したが、刑務所側は元の工場での作業を命じ、6月10日に戻ったという。事件が起きたのはその翌日だったとされる。
取材に応じた受刑者は、「(加害者の無期懲役囚は)班長を殺そうとしたのですが、班長は機械作業をしていて離れていたところにいたので、殺しに行けなかったようです。そして、道具箱の点検が他の班から始まり出したので、木工のみを取り出したことがばれてしまうと思い、点検をしている職員を殺そうと襲ったようです」と振り返る。
過去のケースを調べると、受刑者が殴りあうなどの事件を起こした場合、刑務所は半年ほど経ってから検察に事件を送致して報道機関に発表することが多いようだ。
ただ今回は、刑務官を刺すという重大事件であり、すぐに公表すべきだと考える関係者が少なくない。
「今回のような受刑者が職員を殺そうとしたという殺人未遂事件の報道発表がされないことは違和感があります」
前出の受刑者はそう指摘し、千葉刑務所が受刑者同士のトラブルを把握しながら放置したことで事件が起きたという見立てのもと、「明らかな千葉刑務所側の管理ミスでしょう」と説明した。
千葉刑務所(’90 Bantam / PIXTA)
●事件が起きた工場、拘禁刑に向けた新処遇を導入していた可能性
関係者の間で千葉刑務所の隠蔽を疑う声が上がっているのは他にも事情がある。
それが来年6月の「拘禁刑」導入だ。明治以来となる刑の見直しで、立ち直りを重視する方向へと大きく変わろうとしている。
全国の各刑務所では今、新たな刑のあり方を模索する取り組みが展開されており、今回事件が起きた工場はその試行的な場だったという。
受刑者によると、この工場では今年春から新たな処遇が始まった。5人ほどの受刑者が選抜され、従来は職員の許可が必要だった作業中の会話がそのメンバー間であれば不要になるなど、受刑者の行動制限が緩和されたり主体性を尊重したりする取り組みが進んでいたという。
来年の拘禁刑導入に向けた積極的なトライアンドエラーが求められている中で今回の事件が起きたことから、事件を公表することでこうした取り組みに水をさすことを刑務所や法務省の幹部が恐れているのではないかと邪推する関係者も出てきている。
●千葉刑務所「お答えできない」
事件が起きた経緯や矯正関係者から上がっている疑念の声について、弁護士ドットコムニュースは千葉刑務所に事実確認を求めたが、詳細な説明は得られなかった。
千葉刑務所の竹田孝一郎・総務部長は「事件があったことは認めるが、公表している事案ではないため現時点でお答えできることはない」と話した。