三重県松坂市で8月10日、杖にナイフを仕込んでいた男性が銃刀法違反の現行犯で逮捕されたと報じられています。
東海テレビの報道によると、男性とケンカになった別の男性から「相手は刃物を持っている」と通報があり、警察官が駆けつけたところ、刃物を持った人物は確認できなかったといいます。
しかし、男性の杖を調べたところ、刃渡り9.2センチメートルのナイフが見つかったそうです。男性は、この「仕込み杖」を自作したといいます。
このニュースに対し、SNSでは「座頭市かと思った」「リアル座頭市?」といった感想が寄せられました。
なぜこの男性は「仕込み杖」を持っていただけで逮捕されたのでしょうか。西口竜司弁護士に聞きました。
●仕込み杖は「登録対象外」
日本では鉄砲や刀剣類の所持は、銃砲刀剣類所持等取締法(銃刀法)で禁止されています。
「何人も、次の各号のいずれかに該当する場合を除いては、銃砲又は刀剣類を所持してはならない」(銃刀法第3条)
しかし、実際には日本刀をコレクションしている人もいます。これは、例外として「美術品若しくは骨とう品として価値のある火縄式銃砲等の古式銃砲又は美術品として価値のある刀剣類」は所有者が住む都道府県の教育委員会に登録すれば所持することができるからです(銃刀法第14条)。
では、仕込み杖はこの登録の対象になっているのでしょうか。東京都の公式サイトにある「銃砲刀剣類登録審査会の案内」によると、登録の対象とはならない刀剣類として、「変装刀剣類(仕込み杖、煙管や扇子等に仕込まれた刀剣類)が挙げられています。つまり、登録の対象外で、所有や所持が禁止されているということになります。
また、銃刀法だけでなく、軽犯罪法でも正当な理由がなく刃物を携帯していた場合は、拘留または科料に処すと定められています。刃渡り6センチメートルをこえない場合でも、規制を受けるケースがあるので、注意が必要です。
今回のニュースで、「仕込み杖がほしい!」といった声もSNS上でみられましたが、残念ながら現代ではリアル座頭市は難しいようです。
●仕込み杖を所持していたらどんな罪に問われる?
では、禁止されている「仕込み杖」を所持していた場合、どのような刑罰が科せられるのでしょうか。西口弁護士は次のように説明します。
「銃刀法第22条では刀剣類以外の刃物の所持について、『業務その他正当な理由による場合を除いて、刃渡り6センチメートルをこえる刃物を携帯してはならない』と定めています。
今回問題となっている仕込み杖は、刃渡り9.2センチメートルなので刃物にあたります。また、正当な理由とは、「店で刃物を購入した後、自宅まで持ち帰る」などの場合をいいますので、今回のような「護身のため」は該当しません。したがって、銃刀法違反が成立し、2年以下の懲役または30万円以下の罰金が科されることになります。意外と重い犯罪なので気をつけてください」
また、仕込み杖が模造刀だった場合について、西口弁護士はこう指摘します。
「銃刀法第22条の4では業務その他正当な理由のない『模造刀剣類』の携帯も禁止されていますので、仕込み杖が模造刀であっても、携帯すれば犯罪になります。ただし、罰則については「20万円以下の罰金」と、刃物の場合と比べて軽い罰が定められています。理由は危険性の程度が高くないからです。
いずれにしても、仕込み杖だから犯罪にならないということではありません。不用意に危険なものを持ち歩かないようにしましょう。子どものころ、時代劇に憧れて偽物の刀を差していましたが、一線を越えてはいけないなと改めて思いました」