男性の体臭をめぐるXの投稿が批判されたフリーアナウンサーの川口ゆりさんが、所属事務所から「異性の名誉を毀損する不適切な投稿行為」などを理由として契約を解消された。
川口さんは「夏場の男性の匂いや不摂生してる方特有の体臭が苦手すぎる」などとXで発言したことで、特定の性別を対象とした差別だなどと炎上していた。川口さんは契約解消を受けて謝罪している。
近年、性別をめぐる投稿が差別的だと判断されると、SNSやネット上では投稿者に過度な批判が集まり、場合によっては仕事を失うなどキャリアがストップするまでの事態に至ることもある。
インターネットの問題に詳しい小沢一仁弁護士は「そもそも今回の投稿はおよそ法的には違法ではありません」と指摘。SNSの発言には責任が伴うことは前提としつつ、あまりに"キャンセルの風潮"が進めば、息苦しい社会が待っていると警鐘を鳴らす。小沢弁護士に聞いた。
●【弁護士の見解】法的な「名誉毀損」にはあたらない
【すでに削除された川口さんのX投稿】 「ご事情あるなら本当にごめんなさいなんだけど、夏場の男性の匂いや不摂生してる方特有の体臭が苦手すぎる。常に清潔な状態でいたいので1日数回シャワー、汗拭きシート、制汗剤においては一年中使うのだけど、多くの男性がそれくらいであってほしい…」
——今回の川口さんの投稿は法的には名誉毀損にあたるのでしょうか。
あたりません。
名誉毀損は、公然と事実を摘示して人の社会的評価を低下させることにより成立しますが、本件で川口さんは、特定の誰かについて述べたわけではありませんから、名誉毀損の要件を満たしません。
単に川口さんの意見を述べただけのものですから、およそ法的に違法とはなりません。
●発言した人だけでなく、所属先や取引先にまで攻撃が及ぶ危険
性をめぐる発信がすぐに差別的だと指摘され、場合によって今回のようなキャンセルも発生する社会に感じる息苦しさ。
ここ数年、性に着目した発言をすると、「性差別だ」などとすぐに炎上するケースが少なくありません。
発言した人の個人情報が明らかになると、SNSで勤務先などが公表されたりします。それだけでなく、大勢の人が勤務先や契約先などに対して、解雇や取引中止など、発言した人との関係を絶つように求め、社会的に排除しようとする行為(キャンセル)に発展する事例が多数ありました。
今回は男性を対象にした発言でした。しかし、これまでは、女性に対する発言が問題視される事例がほとんどだったと私は認識しています。
そのため、女性について発信することで、多くの人から中傷をうけ、時には職や取引先を失う事態にまで発展することを理不尽ではないかと感じる人が増えていったのだと思います。
●「女性差別が引き起こすキャンセル」に蓄積していたフラストレーション
なお、ストレートに女性を差別するような発言は批判されて当然です。
これまで炎上してきた事例では、大きく問題視されたのは、些細なことであったり、なぜそれが差別に当たるのか疑問に感じざるを得なかったりするようなケースだったと思います。
女性差別発言に関する多くの事例が蓄積されるうちに、今度は女性という性に着目した発言をした人をキャンセルする行為に対して、人々のフラストレーションが相当高まっていたように見受けられます。
そこに今回の男性の体臭に関する発言があったので、これまでの反動として、「男性差別だ」と大きく炎上したのではないでしょうか。
差別を許さないという大枠で反対する人はあまりいないのではないかと思います。ただ、差別と言っても濃淡があり、些細な発言がすぐに差別だとして炎上させられてしまっては、性にまつわる話は何もできなくなってしまいます。
そんな社会で良いのかと疑問に思わざるを得ません。性に関する話題以外でも同様のことが起きています。
叩いている人たちが気持ちよくなるだけで、誰も幸せにならない行為だと思いますし、どこかで歯止めをかけないと、どんどん言いたいことも言えない息苦しい社会になっていくと思います。