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ストーカー規制法「警告」、裁判で取り消せないの? 高裁判決が“門前払い”したワケ
大阪高裁(白熊 / PIXTA)

ストーカー規制法「警告」、裁判で取り消せないの? 高裁判決が“門前払い”したワケ

奈良県警からストーカー規制法に基づく「警告」を受けた女性が、警告の取り消しを求めた行政訴訟で、大阪高裁は6月26日、一審奈良地裁を支持し、「警告は行政処分に当たらない」と判断し、控訴を棄却した。

産経新聞(6月26日)によると、女性側は警告が強い威嚇になるほか、2008年の銃刀法改正で警告を受ければ銃所持の許可を得る資格がなくなることになった点などを挙げ、警告は取消訴訟の対象になる行政処分であると主張していたようだ。

大阪高裁は、銃刀法改正でストーカー規制法上の警告に法的な効果が生じたものの、警告制度自体の見直しはなく、「警告に行政処分としての性質を新たに与える趣旨ではなかった」などとし、警告を受けることによる行動の制限などは「事実上の結果」で、警告による直接的な法的効果ではないと判断。行政処分には当たらず、取消訴訟で争うことができないとの結論となったという。

女性側は上告する方針とも報じられており、まだ判決が確定したわけではないが、警察による警告と聞けば、一般的には一定の重みがあるように受け止められそうだが、それを裁判で取り消せないというのはなぜなのだろうか。元警察官僚の澤井康生弁護士に聞いた。

●「警告」に罰則なし→「処分性」に影響の可能性も

──ストーカー規制法の「警告」とはどのようなものですか。

ストーカー規制法3条は、何人もつきまとい等をして相手方に身体の安全や行動の自由が著しく害される不安を覚えさせてはならないと定めています。

これを受けて同法4条は、警察署長等はつきまとい等の被害を受けた人からの申出があった場合、3条に違反する行為があり、かつ、その行為が反復されるおそれがあると認めたときは、これ以上つきまとい行為をしてはならない旨の「警告」をすることができると規定しています。

この警告が今回の裁判で争点となっています。もし警告に違反した行為におよんでも罰則はありません。

同法5条は、さらに強力な措置として「禁止命令」を定めており、都道府県公安委員会は、反復して当該行為をしてはならないこと及びこれを防止するために必要な事項を命ずることができます。

警告違反とは異なり、禁止命令違反には罰則があり、禁止命令に違反したことを理由に逮捕されるケースもあります。

──「警告が行政処分に当たらない」というのはどういう意味でしょうか。

行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟は「抗告訴訟」といい、今回のケースでは「行政庁の処分その他の公権力の行使に当たる行為」の取消しを求める訴訟において、審理の対象となるか否かの要件である「処分性(行政処分か否か)」の有無が争われています。

判例は、「行政庁の処分(行政処分)」について、行政庁の法令に基づくすべてを意味するものではなく、公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によって、「直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているもの」と解しています(最高裁昭和39年10月29日判決)。

この最高裁の判例を前提とすると、ストーカー規制法上の警告はこれ以上つきまとい行為をしてはならない旨を警察側が伝えるものに過ぎず、警告自体には罰則もないことから、法的効果も認めることはできません。

したがって、「直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているもの」とはいえず、「処分性」がないという結論になります。処分性が認められない行政庁の行為は一般に「行政指導」と言われています。

奈良地裁、大阪高裁は前述の最高裁判例にしたがって、ストーカー規制法上の「警告」に処分性を認めなかったものと思われます。

たしかに銃刀法にはストーカー規制法上の警告を受けた場合、銃所持の許可を得る資格がなくなると規定されていますが(銃刀法5条1項15号)、これはあくまで銃刀法の問題であり、警告は依然として処分性のない行政指導に過ぎないとの判断です。

これに対して、接近禁止命令の場合には罰則もあることから、処分性が認められると思われます。

●「処分性」なくても国家賠償請求は可能

──「処分性」が認められない場合、もう他に争う方法はないのでしょうか。

処分性がない行政指導について取消訴訟を提起することはできませんが、誤った行政指導により損害を被った場合には、処分性の有無にかかわらず、国家賠償請求訴訟を起こすことが可能です(最高裁平成5年2月18日判決)。

国家賠償法は単に「公権力の行使」としており、行政庁の処分性のある行為に限定していないからです。

今回のケースについても、ストーカー規制法上の警告についてはこの方法で争うことが可能だと思われます。

【編集部より 7月1日 12時】 大阪高裁の判決内容について不正確な記述があったため、訂正しました。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

プロフィール

澤井 康生
澤井 康生(さわい やすお)弁護士 秋法律事務所
警察官僚出身で警視庁刑事としての経験も有する。ファイナンスMBAを取得し、企業法務、一般民事事件、家事事件、刑事事件などを手がける傍ら東京簡易裁判所の非常勤裁判官、東京税理士会のインハウスロイヤー(非常勤)も歴任、公認不正検査士試験や金融コンプライアンスオフィサー1級試験にも合格、企業不祥事が起きた場合の第三者委員会の経験も豊富、その他各新聞での有識者コメント、テレビ・ラジオ等の出演も多く幅広い分野で活躍。陸上自衛隊予備自衛官(2等陸佐、中佐相当官)の資格も有する。現在、早稲田大学法学研究科博士後期課程在学中(刑事法専攻)。朝日新聞社ウェブサイトtelling「HELP ME 弁護士センセイ」連載。楽天証券ウェブサイト「トウシル」連載。毎月ラジオNIKKEIにもゲスト出演中。新宿区西早稲田の秋法律事務所のパートナー弁護士。代表著書「捜査本部というすごい仕組み」(マイナビ新書)など。

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