大阪地裁は2024年5月、虚偽告訴罪で起訴された20代の女性に対して懲役1年6月、保護観察付執行猶予3年(求刑:懲役1年6月)の判決を下した。
虚偽告訴罪と言えば、群馬県草津町の元町議の女性が事実とは異なる性被害を訴えた事件として聞き覚えがある読者の方もいるだろう。本件も事実と異なる虚偽の性被害を訴えたものだ。しかし、草津町のケースと異なり、複数の人物が関与した組織的な犯行だった。
「こんな大ごとになると思わなかった」と被告人が供述したように、安易な考えで実行され、しかし大きな被害結果となる可能性のあった事件の顛末を追った。(裁判ライター・普通)
●関係を持った後に「睡眠薬を盛られたかも」と虚偽申告
被告人は、目鼻立ちがはっきりとし、整った容姿を印象付ける女性だったが、慣れない裁判に不安そうな様子を見せる場面も多々あった。
起訴状によると、被告人らは、虚偽の性被害をでっちあげて「示談金」を支払わせる目的で、マッチングアプリで職業欄やプロフィール欄を参考に高収入である人物を狙って探し、被害男性と知り合った。
あらかじめ計画していた通り、合意のもと男性と関係を持った後、「気分が悪い」「睡眠薬を盛られたかもしれない」などと119番通報。救急隊に搬送され、警察にも被害申告をした後、男性に対して「3000万円」の支払いを要求した。
男性は弁護士を雇い、支払いを拒否していたところ、被告人が共犯者の指示に沿って、脅され、押さえつけられ強制的に性行為をさせられたとする虚偽の被害届を提出した。
その後も共犯者が執拗に男性と接触し金銭を要求するも、男性がその会話内容を録音していたことで、虚偽告訴としての事案が発覚。
男性は「弁護士に聞いた通り、求める賠償金が高過ぎるので根拠を示すよう話したら難癖をつけてくるようになった。警察が相手のことを信じてしまったら、果たしてどうなるのかと不安になった」と当時の心境を供述している。
●背後には「犯罪グループ」の影…女性は1つの駒に過ぎなかった
事件は共犯者の主導によって行われ、被告人は従属的な立場だった。被告人は取調べに対し、「共犯者の指示に従って病院へ行き虚偽の申告をしたところ、病院は警察に行くことを決め、大ごとになってしまったと思った」などと当時の心境を供述している。
短絡的な犯行かとも思われたが、検察側が提示した共犯者との関わりを示す証拠によって、驚きの全体像が明かされる。
被告人はキャバクラ店に勤務している際、客として訪れた共犯者と知り合った。金に困っているなどと相談をしたところ、今回の犯行を提案された。
他にも共犯者からは、架空の投資名目で客を募って、反応があった人物を共犯者に紹介すれば分け前がもらえる仕事もあったが、これは1件もうまくいかなかった。
その共犯者も決して逃げおおせている訳でない。被告人とは別に刑事裁判を受けている。
ただ共犯者は、この虚偽告訴事件以外にも、詐欺事件、脅迫事件など多数の事件で起訴されており、2024年5月時点でまだ裁判は続いている。この共犯者はなんと、複数人で主犯格となるグループを組み、今回の被告人のような主従関係を結ぶ人物を事件ごとに据えながら多数の事件を起こしていたのだ。
●稚拙な動機「将来が不安だからまとまった金が欲しかった」
被告人質問で、短絡的に犯行に関与した経緯などが明かされた。
検察官「『大ごとになると思わなかった』と言っていますが、被害届を提出するということは大ごとではないのですか?」 被告人「共犯者から『別に本当に逮捕してもらいたいとかやないやん?』と言われ、深く考えていませんでした」 検察官「あなたが嘘をつくことで、その男性が逮捕されるかも、刑務所に入るかもとは思わなかったんですか?」 被告人「共犯者が『そんなことにならない』と言われて、そうなんだと思いました」 検察官「話に乗ったのはお金のためとのことですが、いくらもらえると?」 被告人「はっきり聞いてなかったけど、何百万とか」 検察官「お金はなんのために必要だった?」 被告人「将来がすごく不安で。学歴もなく、ちゃんとした就活もしてないから、まとまったお金が欲しくて」
今後の生活として、「付き合う人物を考える」「一度、犯罪に関わる経験をしたから、どういう人か見抜ける」などとして再犯しないと供述する被告人。母親も証言台に立ち、今後の監督を約束した。
最後に裁判官が質問した。
裁判官「生きてると不安になることもあります。やさしそうなことを言う人などに騙されないか心配です」 被告人「今後いろいろな人と関わると思いますが、自分が犯罪に関わらないと強く思えば大丈夫と思います。どんな迷惑をかけるか、結果を考えるようにします」
●判決で示された「被告人の今後」への不安感
判決は懲役1年6月、保護観察付執行猶予3年だった。
量刑について、従属的な立場であった点や若年である点など執行猶予となったと説明。一方で、検察官が論告時に言及しなかった保護観察付とした点は、「これまでの生活、就労状況を踏まえて」と言及し、質問等で浮かび上がった被告人の今後への不安感が示された格好となった。