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ガーシー容疑者、実刑判決の可能性は? 刑事弁護人に聞く
成田空港に到着し、逮捕された元参院議員のガーシー容疑者(2023年6月4日、成田空港で、東京スポーツ/アフロ)

ガーシー容疑者、実刑判決の可能性は? 刑事弁護人に聞く

「暴露系YouTuber」として芸能人らに脅迫や名誉毀損にあたる発言を繰り返したなどとして、前参院議員のガーシーこと東谷義和容疑者が逮捕された。

6月4日に滞在先のアラブ首長国連邦(UAE)から帰国し、成田空港で逮捕状が執行された様子は大きく報道され、話題となっている。

刑事弁護人の神尾尊礼弁護士に、逮捕容疑となった暴力行為等処罰法違反(常習的脅迫)の罪とは何か、今後予想される展開について聞いた。

●常習的脅迫とは

常習的脅迫は、「暴力行為等処罰に関する法律」に規定された犯罪です。この法律は、刑法の特別法的立ち位置で、刑法に規定された犯罪類型の中で、危険性が増す要素がある場合、刑法よりも重く処罰する法律です。

例えば、 ・脅迫+凶器を示す→示凶器脅迫(1条)
・脅迫+常習→常習的脅迫(1条の3)
といった具合です。

今回、核となるのは常習的脅迫のようですが、通常の脅迫罪に、常習性が追加されて重く処罰される、そういうイメージで捉えていただければと思います。

ちなみに「暴力行為等処罰に関する法律」はとても古い法律で、原文はカタカナ交じりです。正式な法律の名称すらついていません。ただ、一般に「暴力行為等処罰に関する法律」と呼んでいますし、判例でもこの呼び名が使われています。

おそらくこの法律の中で比較的多く出てくるのは示凶器脅迫と常習傷害でしょう。示凶器脅迫は、少し前までは「近隣トラブルで刃物を振り回す」「夫婦げんかで刃物を見せる」といった事案がよく検挙されていた印象です。常習傷害は、逮捕時は傷害で、裁判になってから常習傷害と訴因変更されることが多い印象です。

●身柄拘束は必要だったのか

報道によれば、所在確認の青手配書から身柄拘束の赤手配書に切り替わっていたとのことです。これが帰国につながったと思いますが、詳細は不明です。

刑事弁護人として気になるのは、身柄拘束が必要なのかという点です。証拠は動画で残されているでしょうから、いまさら隠滅しようもないでしょう。おそらくすぐ日本に帰ってきていたら、逮捕まではなかったのではないかと思います。

●起訴となった場合の見通しは

刑事弁護人視点としては起訴を望まないのですが、客観的にみると起訴される可能性は相当高いと思います。動画という形で証拠が固いのと、被害者と思われる方々が示談をしないと思われるからです。

保釈が認められる可能性もあるでしょうが、逃亡の経緯を考えると、保釈保証金はかなりの高額になりそうです。

まだ起訴もされていない段階で判決を見通すのは難しいですが、報道どおりのもので起訴され有罪になったとすると、執行猶予が一番あり得ると思います。

脅迫は刑法犯の中でも重い方ではなく、常習性があったとしても脅迫の量刑を大きく超えるものではないからです。動画により利益を得ていたのであればかなり特殊とはいえますが、脅迫は意思決定の自由をどこまで侵害したかであり、利益を上げたかどうかは意思決定の自由とは直接関係がないので、上振れはすれど大きく重くなることはないと思います。

そのほか、逃亡していた事情なども、重くなる事情ではあるものの、大きく重くする事情ではないと思われます。

以上を考えていくと、報道では明らかになっていないような事情がない限りは、執行猶予が見込まれるのではないかと思います。

個人的には脅迫行為は非常に許しがたいと思う行為なのですが、法体系全体の中で考えていったときに、実刑まではいかないのではないか、というのが私の結論です。

【編集部追記】「常習的脅迫はまれな犯罪」という記述がありましたが、一部誤りが含まれていたため、該当部分を削除しました。(2023年6月7日21:10更新)

プロフィール

神尾 尊礼
神尾 尊礼(かみお たかひろ)弁護士 東京スタートアップ法律事務所
東京大学法学部・法科大学院卒。2007年弁護士登録。埼玉弁護士会。一般民事事件、刑事事件から家事事件、企業法務まで幅広く担当。企業法務は特に医療分野と教育分野に力を入れている。

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