3月の週末、千葉県に住むAさんは家族を車で駅まで送り届けたあと、ロータリーから道に出たところで警察官に呼び止められた。
「いま一時停止しませんでしたよね?」「は? 止まりましたよ」
ドラレコで無実を証明しようとするも、容量がいっぱいで記録されておらず…。前にも同じように止められている車がいた。「年度末のネズミ捕りに引っかかったか」。もやもやしたまま、青色の反則切符と7000円の納付書をバッグに突っ込んだ。
道交法を調べてみると、一時停止違反には何秒止まるという明確な基準はない。2022年夏、警視庁と交渉し、横断歩行者妨害の違反を取り消させた藤吉修崇弁護士に、交通取り締まりについて聞いた。
●違反の3分の1を占める「一時不停止」
警察庁によると、2021年の道交法違反取り締まりのうち一時不停止は約159万件で、全体の28.6%と最多を占める。次に多い速度違反の106万件(19.2%)と合わせてほぼ半数だ。
Aさんのやりとりを振り返る。
警「減速して左右を見たのは確認しましたけど、完全に止まってませんでした」
A「いやいや、それは認識の違いでしょ。何を根拠に言ってるわけ?」
警「僕がこの目で見てました。ドラレコあるなら見せてもらっても結構です」
A「おうよ!あ、記録できてない…」
免許取り消しなどの行政処分につながる違反点数は2点で、反則金は普通車の場合7000円。もし道交法違反で起訴され、裁判で有罪になった場合には「3カ月以下の懲役または5万円以下の罰金」となる。
藤吉氏は「一時不停止の場合は不起訴になる可能性が高いですが、2点は累積されます。ドラレコがない場合は、否認をして戦うのは厳しいでしょう。警察官は2人で取り締まりに当たっていることが多く、証言の信用性も高いためです」と説明する。
Aさんのように不毛な議論でイライラするのは賢明ではなく、藤吉氏は「時間と気持ちをムダにしないためにも、自信を持って不当と言えない場合、戦うのはおすすめできない」とする。
●違反を取り消すまでは至難の業
藤吉氏は、2022年6月に横断歩道歩行者妨害の違反を取り消させた経験がある。東京都内で歩行者から「お先にどうぞ」と譲られたドライバーが、そのまま進行したところ、警察に道交法違反で反則切符を切られた事案だ。
警察署に電話する様子などをYouTubeで発信、1カ月間かかって得た「勝利」だった。
「ドラレコを見て、運用の基準を明確にする必要があると思ったので引き受けました。違反不成立と書かれた『反則告知是正通知書』を見たのは生まれて初めて。テレビで報道されるなどの後押しがあったのも大きかった」
一時不停止も歩行者妨害も、警察官の目視が基準となっており、彼らのさじ加減一つだ。裁判にまでなることはまれなので、警察にとっては、件数が稼げてコストパフォーマンスがいいともいえる。
一方でドライバーにとっては自信を持って違反ではないと主張できない限り、戦うことは時間がかかる上に、前科がつくリスクもあり、コスパもタイパ(タイムパフォーマンス)も悪すぎる。
「怒りで気持ちを乱され、事故を起こしては元も子もありません。粛々と対応しましょう」(藤吉氏)