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〝ヤクザ対策の弁護士〟が高校に出前授業、「特殊詐欺」のこわい実態に教室静まりかえる
授業をする弁護士たち(2022年12月5日)

〝ヤクザ対策の弁護士〟が高校に出前授業、「特殊詐欺」のこわい実態に教室静まりかえる

「オレオレ詐欺」などの特殊詐欺に若者が巻き込まれないようにと、東京にある3つの弁護士会の民事介入暴力対策委員会が12月5日、東京墨田区の立志舎高校の1〜2年生を対象に合同で出前授業をおこなった。

「民事介入暴力(ミンボー)」とは、暴力団が一般市民の日常生活などに介入して、不法な利益を獲得しようとする行為のこと。

弁護士たちが「分かりやすく言うと、自分たちはヤクザ対策委員会。多くの悲劇を見てきたので、皆さんには絶対にそうなってほしくない」などと自己紹介すると、教室の雰囲気がピリッと引き締まった。

●甘い言葉で、抜け出せない沼に誘い込まれる

警察庁の統計によると、2020年に受け子や出し子など、特殊詐欺への関与で検挙されたのは1936人。このうち約7割にあたる1362人が10代、20代だった。地元の友人・先輩からの誘いや、「高額バイト」をうたうSNSの募集、繁華街でのリクルートなどがきっかけになることが多いという。

「組織は『簡単に稼げる仕事があるよ』と甘い言葉をかけてくる。最初は良いことを言うけれど、一度足を踏み入れたら最後。使い捨てとしか思われていないので、捕まるまで利用されてしまう」(山本裕人弁護士)

途中で逃げ出せば良いじゃないかと思うかもしれないが、引き受けた時点で身分証の画像を送っており、個人情報や悪いことに手を染めている弱みを握られているため、抜けるに抜けられないという。

「やめると言ったら脅される。実際の脅しの電話は、本当に怖い。近隣の画像やボコボコにしているリンチ画像と共に『家におしかけるぞ』と脅される例もある。そのような脅しを受ければメンタルが壊れてしまう」(関秀忠弁護士)

甘い話に乗ってしまったがために、「加害者」であると同時に「被害者」にもなってしまうのだ。

「どうしても断れないときは、『自分、根性ないんで。捕まったら先輩のこと、黙っていられる自信がないです』と使えないやつアピールをするのも一つの手」(後藤慎平弁護士)

●わずかな報酬、大きな賠償義務

受け子や出し子は被害者に直接接触するため逮捕されやすい。成人していれば、前科前歴がなくても一発で実刑になることもある。未成年は少年法の対象になるものの、ほぼ全員が少年鑑別所送りになるし、その後、少年院送りになる者も多い。

「捕まったら賠償しなくてはならない。リーダーはなかなか捕まらないから、被害者は捕まった人に賠償を求める。つまり、数万円しかもらっていないのに、全額の賠償を求められてしまう」(能美吉貴弁護士)

悪意で加えた不法行為については、破産しても免責されないため、賠償の義務がずっとついて回る可能性がある。また、前科があると、就職や結婚などで不利になることが多いのが現実だ。目先の数万円のために人生を棒に振ることになってしまう。

直接相手を騙すわけではない分、軽い気持ちで関与してしまう若者も少なくないが、被害者の生活や家族関係が滅茶苦茶になるケースも多々あり、良心の呵責にも苦しむことになるという。

●小中学校でも出前授業を実施

立志舎高校では、これまでも弁護士を呼んで、同種の出前授業を実施してきた。伯耆原浩行(ほうきばら・ひろゆき)校長は、「外部のプロの話を聞くと、生徒たちの集中力が違う。我々が注意するよりもはるかに説得力があり、ありがたいです」と話していた。

近年は中学生が特殊詐欺に関わるなど、低年齢化していることもあり、東京三会の民暴委員会は小中学校や教員らを対象とした出前授業も実施している。

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