「飲食店にて、隣の客が注文して数分してお店を出て行きました。お店側は商品を作っている様子でしたが、これは詐欺罪に値するのでしょうか?」。こんな質問が弁護士ドットコムのLINEに寄せられました。
情報提供者が迷惑客を見かけたのは、ラーメン屋。店を出て行ったのは20歳前後の男性2人で、無言のまま代金を支払うこともありませんでした。
ヤフー知恵袋にも、出て行ってしまった側の人から、質問が寄せられていました。投稿者は、注文してから30分たっても料理が出てこず、怒ってお店の人に何も言わず出てしまったそう。「これって無銭飲食になりますか?」と尋ねています。
料理を作り始めているのに店を出ていかれた場合、お店の人は非常に困るでしょう。注文後に何も言わずに店を出ていく行為は、詐欺罪にあたるのでしょうか。櫻町直樹弁護士に聞きました。
●結論としては「成立しない」
ーー飲食店で料理を注文後、料理が出てこない段階で代金の支払いをしないで出ていった場合に「詐欺罪」が成立しますか
結論としては「成立しない」といえるでしょう。まず、詐欺罪の条文を確認してみましょう。
刑法第246条 1、人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。 2、前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
刑法236条に定められている「詐欺罪」が成立するには、詐欺の故意→「相手を欺く行為」→「その行為によって相手が騙される」→「騙されたことによる財物の交付(または財産上の利益付与)」が必要となります。
ーー「相手を欺く行為」がないと、成立しないのですね
ただ、代金を支払うだけのお金を所持していないにもかかわらず、それを隠して、料理を注文した場合は、別です。
飲食店側は通常、お客は飲食した後に代金を払ってくれる、と考えて注文を受けますから、お客が注文時点でお金を持っておらず、代金を支払うことができないことを認識していたにもかかわらず注文した場合、「真実はそうでないのに、(代金を支払うに足る)お金があるように装って料理を注文した」ということで、注文行為自体が「相手を欺く行為」にあたるとされています。(仙台高裁昭和28年11月30日判決、神戸地裁平成15年1月29日判決)
ーーでは、今回のように、注文をした時点において、客には代金を支払うだけのお金があり、支払う意思もあったものの、理由を告げずに出ていったという状況はどうでしょうか
その注文行為は、詐欺罪の成立に必要な「相手を欺く行為」にあたらない、したがって詐欺罪は成立しない、ということになるでしょう。
もちろん、飲食店側は、客の注文に応じて料理を作った訳ですから、代金を支払うよう請求することができます。ただ、名前や住所などが分からないと、お店から出ていってしまった客を見つけて代金を払ってもらうことは、実際には難しいでしょう。