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面識のない外国人男性からの怪しいDM、返事をしてみたら 【国際ロマンス詐欺 #1】
謎の男性の輝かしいSNS(画像は筆者提供)

面識のない外国人男性からの怪しいDM、返事をしてみたら 【国際ロマンス詐欺 #1】

「国際ロマンス詐欺」の被害が、あとをたたない。SNSで見知らぬ外国人からアプローチを受け、その巧みな話術に騙されて、恋心もあって多額の海外送金をしてしまうというもので、近年、被害は増加している。

エッセイストの紫原明子さんの元にも、国際ロマンス詐欺を疑わせる外国人男性からのメッセージが届いた。一体、彼はどんな手口で女性にささやき、心を奪ってしまうのか。その顛末を紫原さんが寄稿した。(1/3)

●どんな言葉、どんな手口で素敵な夢を見せるのか

FacebookやInstagram経由で、全く面識のない外国人男性から「こんにちは、友達」とか「you are beautiful」とか、突然親しげなメッセージが送られてくるということは、もう何年も前からよくあることだった。

私のSNSの投稿はほとんどが日本語の文章中心で、日本語以外を話す人にはそれほど関心を抱かせるとは思えないし、ましてや顔写真を頻繁に投稿しているわけでもないことから、どう考えても怪しいと、基本的には返信をせず放置していた。

その直感は正しかったようで、こういった切り口で繋がりを持ち、次第に言葉巧みに金銭を要求する「国際ロマンス詐欺」の被害が近年、多発しているらしい。

しかも聞くところによるとその手口は年々巧妙になってきているそうで、かつて存在したLINEを使ったギフトカード詐欺のように、挨拶も早々に二言目には金銭等の要求をするような分かりやすいものばかりでなく、長い場合は半年、1年とプライベートなメッセージのやり取りを続け、すっかり信頼関係を築き上げた後に送金を持ちかけるといったケースまであるそうだ。

「今いいですか、ギフトカードを送ってください」といった定型文であれば、コピー・ペーストの簡単なステップで流れ作業のように行える詐欺であろうが、長期間会話を続け、ボロを出すことなく夢を見せ続けるというのはそう簡単なことではないだろう。

メッセージのやり取りだけで、相手は自分を見てくれている、理解してくれているという強い実感を抱かせるためには、ときにテンプレートだけでは通用しない、臨機応変な対応も必要となるだろう。果たして国際ロマンス詐欺師は一体どのようにそんなロマンスを演出するのか。どんな言葉、どんな手口で素敵な夢を見せるのか。

半年、1年という期間、詐欺師とやりとりをするという状況に突如として興味を持った私は数日前、Instagramのダイレクトメッセージのフォルダから、未読のまま放置していた国際ロマンス詐欺師を疑わせる男性のメッセージに、返事を送ってみることにした。

●「私は以前何度も日本に行ったことがある」

その男性からの最初のメッセージは2022年3月18日に送られてきていた。私がインスタグラムにアップしていた一枚の海の写真を引き合いに「この美しい浜辺はどこにあるか教えてくれませんか?ありがとうございます」と綴られていた。

約1カ月という時を経て、「こんにちは。これは神奈川県の湘南ですよ!」と返事をすると、ほどなくして立て続けに次のようなメッセージが送られてきた。

「ありがとうございます DMはメッセージを提示しないからです だからすぐにあなたに返事をしなかった そのために申し訳ありません」

「日本には美しいところがたくさんあります 私は以前何度も日本に行ったことがある 美しい沖縄にもいきました そこで潜水、美しい海底の世界を体験しました 至るところに大きなサンゴといろいろな色の小魚がいる 海底でかわいい小魚と追うのは素晴らしい体験ですね」

「私はシンガポール出身で、私の故郷は美しい花園国です シンガポールを知ってる?」

相手は翻訳ソフトを使っているのか、ところどころぎこちなさはあるものの、全体的に丁寧な口調で、短い文中にも美への豊かな感受性と、海外渡航経験とを匂わせる。

●「国際ロマンス詐欺師」と疑った三つの理由

少なくともこの人物が私のアップした写真を見てメッセージを送ってきていることは間違いなく、この時点で相手が国際ロマンス詐欺師だと判断するのは時期尚早だと思われるかもしれない。それでも私がこの送り主を国際ロマンス詐欺師であろうと判断した理由は三つあった。

第一に、彼が興味を持った(ということになっている)海の写真が、自分でアップしておいてなんだがそれほど美しいものではなかったということ。

いや、湘南の海は確かに美しいが、私の撮った写真は灰色の砂浜が中心で、どちらかといえば侘び寂びの海の風景であった。昨今のInstagramにはもっと彩度の高い、ラッセンの絵のような海の写真が無数にアップされている。そんな中で、こう言ってはなんだが私の地味な海の写真に、ついメッセージを送りたくなるほど目を引かれるとはどうにも考えにくかった。

第二に、彼が自分のアカウントにアップしていた写真のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)があまりに高過ぎたということがある。

メッセージから彼のフィードを見ると、そこにはゴルフ、シャンパン、ステーキ、うなぎ、寿司、世界のリゾート。合間に、鍛え上げられた肉体を持つ、俳優のように顔立ちの整ったアジア人男性が並んでいた。人をInstagramのフィードで判断するのは決して褒められたことではないが、そうはいってもあまりにも出来過ぎだと思わざるを得なかった。

人間の凡庸な欲望をぬかりなく端から並べたかのような写真は露骨に仕組まれた罠としか思えず、百歩譲って仮に実在する誰かのリアルな日常であったとしても、冷静に考えてその投稿者が私に用があるとはとても思えなかった(この時点で私がInstagramにアップしていた最新の写真は、エアコンの室外機が菜の花のアブラムシのように無数に張り付けられた、古い雑居ビルの背面の写真だった)。

これらに加えて、会話の序盤に相手から「6月に日本に行きます」と来日予定を伝えてきたこと、また会話を進める中で相手がしきりにLINEで話そうと誘ってきたことから、「相手は国際ロマンス詐欺師である」という予想は確信に変わった。

近く日本に行くと伝え、実際に会う希望を抱かせるのは、国際ロマンス詐欺でよく使われる王道の手口だと何かで読んだ。さらに、一般的に国際ロマンス詐欺師は入り口としてFacebookやInstagram、あるいはTinder等の出会い系サービスを用いるものの、これらは簡単にアカウント停止されてしまうため、その後も会話が続けられるようにある程度やり取りした段階で、LINEやWhat’s upなどのサービスに移行しておくというのもやはり国際ロマンス詐欺の常套手段だと聞いていた。

このような理由で、相手は国際ロマンス詐欺師であるという前提のもと、私は会話を続けた。のちに男は、ビジネスの傍ら病気の母の看病や、迷い犬の保護活動に注力する優しさ溢れる日常をちらつかせながら、思わぬタイミング、そして思わぬ方法で、私に儲け話を持ちかけてくるのだった……。

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【筆者】 紫原明子(エッセイスト) 1982年、福岡県生まれ。男女2人の子を持つシングルマザー。 個人ブログ「手の中で膨らむ」が話題となり執筆活動を本格化。著書に『家族無計画』(朝日出版社)、『りこんのこども』(マガジンハウス)。またエキサイト社と共同での「WEラブ赤ちゃん」プロジェクト発案など多彩な活動を行っている。

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