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台所に侵入した見知らぬ男を制圧したら死なせてしまった…法的責任はどうなる?
写真はイメージです(ヒロサカ / PIXTA)

台所に侵入した見知らぬ男を制圧したら死なせてしまった…法的責任はどうなる?

自宅で勝手に食事していた見知らぬ男を取り押さえたら死なせてしまった——。こんな驚きのニュースが報じられた。

読売テレビ(5月6日)によると、5月5日午後11時ごろ大阪府堺市の住宅で、住人の男性が台所に行ったところ、見知らぬ男がパスタなどを食べているのを発見。男が逃げようとして暴れたため、男性とその弟は男を取り押さえた。その後警察官が駆けつけると、男は意識を失っていて、搬送された病院で亡くなったという。

ネットでは「怖すぎ」「ホラー漫画の世界」と恐怖を覚える人のほか、「事故だとはいえ人殺しちゃうのはメンタルに響きそう」「普通に正当防衛だろ」と家主をかばう声もあった。

果たして、家主の男性は罪に問われてしまうのだろうか。星野学弁護士に聞いた。

●解説のポイント

・正当防衛が成立するかは「急迫性」があるかどうか
・反撃行為は「必要最小限」でなければならない
・防衛行為が多少過剰でも正当防衛が成立することはある

●正当防衛は成立しない可能性

——家主の男性の行為は、正当防衛ですか。

無断で自宅に侵入し(住居侵入罪)、勝手に食べ物を食べていた(窃盗罪)、見知らぬ男が逃げようとしたのを捕まえようとしただけというと、正当防衛が成立して無罪と考えるのも、もっともなように思えます。

しかし、この場合、正当防衛は成立しないと思われます。なぜなら、正当防衛が成立するための条件である「急迫性」を満たしていないからです。

——「急迫性」とは、なんでしょうか。

急迫性とは、「現に法で保護すべき利益(法益)の侵害が存在している、または、侵害の危険が間近に押し迫っている」場合を意味するとされています。

ナイフで切りつけられそうになったため、近くにあった棒で相手を殴ってけがをさせたというような場合が典型例でしょう。

ところが、今回のケースでは、住居侵入行為・窃盗行為はひとまず終了しており、発見されて逃げようとしたところを取り押さえたのですから、たとえその際に男が暴れたとしても、急迫性がないとして正当防衛が成立しないと思われます。

裁判例でも、相手方から足を殴打され、その侵害が一応終わった後、相手の頭を強打して死亡させた場合には、正当防衛の成立が否定されています。

これに対して、男が逃げるために新たに積極的な攻撃をしてきたというのであれば、事情は異なります。

先の「急迫性」が認められるとしても、正当防衛が成立するための条件として、反撃行為が侵害に対する防衛手段として必要最小限のものという「相当性」があるかを検討する必要があります。

●防衛行為が多少過剰でも正当防衛が成立することも

——「相当性」があるかは、どのように判断されるのでしょうか。

相当性の有無は、諸事情を考慮して判断されます。

必要最小限といっても、「木の棒」で殴られそうになったときに木の棒よりも危険な「金属パイプ」で反撃したからといって、必ず相当性がなくなるわけではありません。

しかし、「素手」の相手に対して「刃物」で防衛してけがを負わせたという状況では、一般的に相当性が否定されるでしょう。

——今回のケースでは、死という重大な結果が生じています。相当性はありますか。

相当性は結果ではなく、防衛行為について検討すべきものとされています。

したがって、新たな暴行という攻撃に対して取り押さえるという行為は、相当性のある防衛行為であると考えられます。そのため、たまたま男が死亡するという重大な結果が発生したとしても相当性は否定されず、正当防衛が成立するでしょう。

また、男性とその弟が恐怖・興奮・狼狽によって男を死亡させてしまったと認められる場合には、防衛行為が多少過剰であったとしても正当防衛が成立することになります(盗犯等ノ防止及処分二関スル法律第1条2項の規定)。

●刑罰を受ける可能性は低い

——では、家主の男性は罪に問われないのでしょうか。

たとえ男性とその弟に正当防衛が成立しないと判断される場合であっても、二人が過失致死罪等の罪で実際に刑罰を受ける可能性は低いと思われます。

なぜなら、そもそも二人の行為は正当防衛に近い行動であること、取り押さえるという防衛行為にとどまり攻撃等の過剰な反撃をしていないこと、恐怖・混乱からのとっさの行動であることなどの事情から、検察庁は罪に問わないという不起訴処分の判断をするのではないでしょうか。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

プロフィール

星野 学
星野 学(ほしの まなぶ)弁護士 つくば総合法律事務所
茨城県弁護士会所属。交通事故と刑事弁護を専門的に取り扱う。弁護士登録直後から1年間に50件以上の刑事弁護活動を行い、事務所全体で今まで取り扱った刑事事件はすでに1000件を超えている。行政機関の各種委員も歴任。

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