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相次ぐ教員のわいせつ「まさか先生が…」で隠される被害 学校の性暴力をテーマに漫画化
(c)さいきまこ/講談社

相次ぐ教員のわいせつ「まさか先生が…」で隠される被害 学校の性暴力をテーマに漫画化

教員による児童・生徒へのわいせつ行為が相次いでいる。2019年度にわいせつ・セクハラ行為をして処分された公立小中高校の教職員は、2018年度に続き過去2番目に多い273人だった。

なぜ、学校で性暴力が起きてしまうのか。どうして被害が表に出にくいのか。マンガ『言えないことをしたのは誰?』(講談社)は、教員から生徒への性暴力をテーマにその実態に迫る作品だ。

舞台はとある中学校。教師から性被害にあうも自分のせいだと思い込まされ事実を打ち明けられないでいる生徒のため、主人公の養護教諭・莉生が奔走する。

「スクールセクハラは圧倒的な権力関係の中で起こるもの」と語る作者のさいきまこさん。マンガに込めた思いを尋ねた。

●1年半かけて取材

「今も犯人はそこにいる」「あいつがいる限り犠牲者がまた出るっ…」。

物語は何者かから保健室にかかってきた電話のシーンから始まる。養護教諭の莉生は、ただのいたずら電話と思っていたが、それが「スクールセクハラ」の告発であると気づいていく。

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当初、さいきさんは保健室の養護教諭を主人公に、子どもたちの貧困や虐待問題についてオムニバス形式で描くマンガを予定していた。

そうして養護教諭への取材を始めたところ、「学校での性暴力」の実態を耳にした。

「ある中学校の養護教諭は、女子生徒から『先生の関心が他の生徒にうつってしまって苦しい』と恋愛相談のような形で言われたそうです。その生徒は被害意識は持っていなかったと。

生徒は自分と先生は付き合っていると思い込まされていました。でも実際には先生がホテルで生徒にお小遣いを渡していたんです。

後になって2人の様子を振り返ってもそんな素振りはまったくなくて、『まさかあの子が』と衝撃を受けたそうです」

「とても1話で収まるものではないけど…」と思いながらもエピソードの一つとして案を出したところ、編集者から「学校での性暴力をテーマにしてマンガを描いたらどうか」と提案された。

(c)さいきまこ/講談社 (c)さいきまこ/講談社

それから、当事者をはじめ、被害者支援に携わる臨床心理士や精神科医、弁護士、団体など1年半かけて取材を重ね、物語に落とし込んだ。

連載中の今も取材を続けながら、構想を練っている。さいきさんは「取材すればするほど想像を超えていた。とにかく想像で書いたら絶対にダメ」と強く感じたという。

「最初のプロットでは、被害者が教員を告訴するところを描こうと思っていましたが、裁判をして和解した人がその後も苦しんでいる事実を知りました。さらに、法的手続きまで至れない人もいる。

それを解決として書いてしまえば、セカンドレイプにもなると思ったんです。自分の認識の甘さを恥じましたし、悪しき常識に浸っていると分かりました。思い描くような綺麗な解決は絵空事で、うまくドラマにできるものではないんです」

もともと『陽のあたる家』『神様の背中』(ともに秋田書店)など貧困問題や生活保護に関するマンガを描いていたさいきさん。当事者から度々、性暴力被害の経験を聞くことがあった。性暴力は「いつかきちんと向き合わなければ」と思っていたテーマだったそうだ。

「話を聞いたうちの一人は、学生時代に教員から3年間性被害にあっていました。被害を自覚したのは社会人になってからで、30代になった現在も治療を続けています。

世間では性暴力って1回こっきり、その場限りの被害と思われていますが、被害者は一生その影響を受け続けているんです」

●信じてもらえない子どもの訴え

再びマンガのストーリーに戻る。

主人公・莉生の気がかりは、いつも保健室にくる中学3年生の女子生徒、紗月の存在だった。

「体の怪我と違って心の怪我は目には見えない」。紗月の遅刻や中抜けが多い理由を探るうちに、莉生は紗月が教員から性暴力を受けていることに勘付く。

(c)さいきまこ/講談社 (c)さいきまこ/講談社

なんとかこの事実を裏付けようと一人奮闘する莉生だったが、他の教員には「生徒の言うことを真に受けすぎ」と一蹴されてしまう。紗月もなかなか被害を口にすることができない中、莉生は職員室で孤立していく。

「『まさか先生がそんなことをするなんて』という認識が、教員だけでなく、生徒や保護者の中にもあるために、子どもの訴えは信じてもらえない」。学校の性暴力の特徴について、さいきさんはこう話す。

「生徒は教員の言うことを聞くのが当たり前で、教員のやることを疑わないという前提があります。ですから『合意の上での純粋な恋愛』に見えるとしても、実態は違います。

圧倒的な上下関係の中で、教員のすることは正しいと思い込まされ、おかしいと思い始めても生徒は言い出すことができません。

何十年も経ってから、被害だったと気づいて苦しむ。権力による歪んだ関係だということを、きちんと描きたいと思いました」

(c)さいきまこ/講談社 (c)さいきまこ/講談社

「被害者は『公にするな』など口止めをされ、恥ずかしいことをされたと思わされている。でも、知られて恥ずかしいことをしたのは、まぎれもなく加害者側である」。マンガのタイトル『言えないことをしたのは誰?』にはそんな思いを込めたという。

マンガは現在月刊電子雑誌「ハツキス」(講談社)で2019年10月より連載中で、電子単行本は3巻まで配信されている。

「このマンガは、学校でこうした性被害が起きていることを知らない人、そして、知ってはいるけど記事を読んでいるくらいで実態が分からない人に読んでもらいたいです。

たとえ加害者が罰せられたとしても、加害を自覚できるかは難しいところです。加害者の内面にまで踏み込むのは難しいことですが、マンガの中で加害者のその後についても触れていければと思っています」

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