児童や生徒に対する「わいせつ行為」で懲戒免職処分を受けた教員が、教員免許を再取得できないようにする法改正が見送られたことを受けて、ネットや学校での性暴力防止に取り組んできた「全国学校ハラスメント被害者連絡会」と「子どもの権利を守る会」は12月28日、文科省に対して、抗議の声明文を提出した。
現行法では、懲戒免職になったとしても、最短3年で教員免許を再取得することができる。両団体は「わいせつ行為をした教員の権利は守られているのに、子どもの安全は守られていない」として、あらためて教員免許の再交付をしないよう訴えた。
●「わいせつ行為をした教員からどうやって子どもを守るのか」
両団体は今年9月、わいせつ教員に対して教員免許の再交付をしないよう求める署名を5万筆以上集めて、文科省に提出するなど、子どもの安全対策を訴えてきた。しかし、今回の「断念」を受け、保護者らからは怒りと不安の声が上がっているという。
文科省で同日、会見した両団体の共同代表・郡司真子さんは次のように語った。
「怒りしかありません。文科省には、あらためて教員免許の再交付をしないことと、わいせつ行為をした教員からどうやって子どもを守るのか、具体的に明示してくださいと求めました。
性暴力を受けた子や、それを見てしまった子が不登校になり、家から出られなくなるケースがとても多いです。教育機会が失われたままになっています。そうした子たちに対して、心身のケアと教育機会の保証を文科省が責任をもっておこなうことも求めました」
●「教師以外の職業選択は制限されていない」
わいせつ教員の免許の再交付不可について、文科省は職業選択の自由や刑の執行後、原則10年で刑が消滅するなどと定めた刑法との整合性から断念した経緯がある。
両団体の共同代表・大竹宏美さんは、「職業選択の自由の前に、保護者としては危ない人に子どもを近づけてほしくないというのが願いです。教員免許を再交付しないことで、被害に遭う子どもが一人でも減ることが大切です。先生という仕事だけじゃなくても、ほかにも職業はたくさんありますので、ほかのお仕事に進んでいただければと思います」と切実な思いを話した。
また、郡司さんも「教員免許が再交付されないとしても、教師以外の職業は制限されていません。加害者の人権は法で守られていますが、一方の被害者は人権を踏みにじられたまま、なんのケアもありません。これは平等ではないと思います。文科省の政策にも、被害者の人権侵害という視点がありません」と指摘した。
この声明文に賛同した専門家の一人で、性加害者治療で知られる斉藤章佳・大船榎本クリニック精神保健福祉部長は「子ども性加害経験者は、治療を受けたとしても別の職業選択をさせるべきだと考えています。最初の引き金を避けるのが治療の大原則ですから」とコメントを寄せた。