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2020年06月13日 08時44分

生きるため「大麻」を必要とする人たちがいる 私たちが発信を続ける理由〈亀石倫子弁護士×正高佑志医師〉

生きるため「大麻」を必要とする人たちがいる 私たちが発信を続ける理由〈亀石倫子弁護士×正高佑志医師〉
左から亀石倫子弁護士、正高佑志医師(5月26日、弁護士ドットコムニュース撮影。対談はZoomにておこなった)

大麻をめぐる動きが世界的に変化しつつある。たとえば、アメリカでは33州が医療用大麻を合法化し、州によっては嗜好用大麻も合法化されている。

日本でも「治療に使えるようにしてほしい」など、大麻の合法化を望む声が上がっている。 しかし、大麻を「悪」「有害」と感じている人は少なくなく、議論は進んでいない。

はたして、現行の「大麻取締法」はこのままで良いのだろうか。亀石倫子弁護士と正高佑志医師が対談をおこなった。(編集部・吉田緑)

※新型コロナウイルスの感染拡大を受け、対談は5月26日、Zoomにておこなった。

●なぜ、「大麻取締法」に問題意識を抱いたのか?

正高:直接的なきっかけは2016年秋のことです。僕はもともとフリーランスの内科医をしていましたが、縁あって、日本人の患者さんを連れてアメリカの西海岸に医療大麻を合法的に使いに行くアテンドに参加することになったんです。

この患者さんは、神経の病気のために両足の筋肉が突っ張り、曲がりづらいという症状があり、病院で処方される薬では効果がないという状態でした。

しかし、現地で医療大麻を実際に使ってみると、足の筋肉の突っ張りが取れて歩きやすくなり、歩行の距離が伸びていきました。これまでは歩行後に筋肉が痙攣し、夜眠れないこともありましたが、それも一切なくなりました。明らかに運動機能の改善がみられて、大麻がよく効いていると感じたんです。

正高佑志医師 正高佑志医師は「医療大麻のお医者さん」として知られている。

実際にカリフォルニア州で大麻を売っている場所を見に行ったり、医師と接したりして、日本と随分違うと感じていた矢先に、日本で高樹沙耶さんが大麻を所持したとして逮捕されたことを知りました。このとき、日本との温度差を感じました。

科学的な研究の裏付けを調べていくと、英語の情報はいろいろ出てきます。しかし、それを「日本語にして伝える」ということはほとんど誰もやっていませんでした。誰かがやらなければならない。僕が見たことや感じたことを伝えたい。その思いでGreen Zone Japan(https://www.greenzonejapan.com/)を設立し、情報を発信し続けて3年ほどになります。

Green Zone JapanのWEBサイト Green Zone JapanのWEBサイト。Youtube(https://www.youtube.com/channel/UCKPAXqupaMyGdLAZQtz5J1Q)でも大麻に関する解説動画を配信している。

亀石:私の場合、弁護士になった当初から、大麻取締法違反の刑事弁護をすることが沢山ありました。しかし、これまで私が出会った依頼者の中で「大麻取締法」自体を疑問視する人は1人もいませんでした。しばらくの間は、私もたいした問題意識を持たずに弁護をしていたというのが正直なところです。

ただ、覚せい剤を使用した人が、その副作用によって二次犯罪(たとえば傷害や放火など)を起こしたというケースはあったものの、大麻を使用した人が二次犯罪を起こしたり、自己の健康を害しているケースには出会ったことがありませんでした。そのため、大麻取締法の規制根拠はいったい何なのだろう?と疑問には思っていました。

そんなとき、日本の大麻取締法を疑問視する正高先生のツイッターをみつけたので、ひそかにアカウントをフォローしたんです。

亀石倫子弁護士 亀石倫子弁護士。正高医師には自ら「大麻のことをもっと教えてほしい」とDMを送ったという。

正高:亀石先生にフォローされたときはビックリしました。

亀石:正高先生の発信のおかげで、いろいろなことを知ることができました。また、タトゥーの彫り師の方の医師法違反事件を担当したことがきっかけで出会った精神科医の遠迫憲英(えんさこ・のりひで)先生もアメリカ西海岸における大麻の現状を実際にご覧になられており、医療大麻の情報をSNSなどで流していました。

このような情報を見ていくうちに、日本が海外とは真逆の方向に向かっていることに強く疑問を抱くようになりました。日本では、大麻は「絶対ダメ」なものになっていますよね。でも、本当にそうなの?と。

●「タブー」視される「大麻」…それでも発信する必要性

亀石:私は国政選挙に出たこともあるのですが、「(大麻について)本当のことを知ろう。そこから議論を始めよう」という思いで、大麻に関するトークイベントを企画しようとしていたんです。正高先生をゲストにお迎えしようと考えていました。

正高:そうだったんですね!

亀石:でも、選挙スタッフ全員から大麻に関するトークイベントは「リスクが高い」と反対されたんです。日本では、そんなに大麻はタブーで口に出せないようなトピックなのかと衝撃を受けました。

選挙に落選後は自由になったので、逆に「そんなにタブーならば、どんどん言っていかなきゃ」と思いました。

亀石倫子弁護士 発信することの必要性を訴える亀石倫子弁護士。

発信することは必要だと思っています。重要なのは「だれが・どのように発信するか」です。いくら影響力や知名度があったとしても、世間からの受け止められ方次第では広まらないこともあります。

私が関心を抱くようになったのは、正高先生が医師の立場で「医療大麻」という文脈で取り上げたからだと思います。

ただ、大麻に関して発信すると、好意的な意見とネガティブな意見がハッキリ分かれますよね。私も「亀石さんも大麻やっているんじゃないの」「そんなに大麻やりたいならば日本から出て行け」などと言われることがあります。

正高:分かります。肯定的な意見を送ってくれる人は、大麻を実際に使用した人や見たことがある人の割合が高いように感じています。逆にネガティブな意見の人は、おそらく大麻を見たことはなく、よく知らないのだと思います。

見たことがないものに対して否定的な意見を送る人たちの中には「大麻を使う人=犯罪者=叩いてもいい人」というようなマインドを持つ人たちも少なくないように感じています。僕はこのことについても疑問を抱いています。

●「生きるため」に大麻を必要としている人がいる

亀石:大麻草から抽出される「CBD」(大麻に含まれている成分「カンナビノイド」の1つ)を使ったオイルなどの製品が健康・美容の観点から注目されるようになってきましたよね。

CBDオイル 記者が実際にオーガニックコスメを扱う店舗で購入したCBDオイル。リラックス効果があるという。

正高:女性誌などに取り上げられたことで、これまで大麻に関心を示さなかった人たちが関心を持つようになりましたよね。CBDは「サプリメント」としてだけではなく、「医薬品」として子どもたちのてんかんに効果があることが実証されています。

実はCBDをもっとも抽出できるのは花穂なんです。花穂から抽出したCBDの方が科学的な実績も豊富です。しかし、花穂から抽出された製品は大麻取締法で禁止されています。

日本では、CBDはまだ医薬品として認可されておらず、自由診療の扱いです。また、成熟した茎や種子から取れるCBDの量は少ないので、CBD製品の値段も高額になっています。

僕は子どもたちのてんかんの治療のために、実際にCBD製品を使用している方たちと接する機会がありますが、金額の問題は切実です。一日も早く保険診療でカバーされるべきだと思います。

亀石:このように大麻取締法はCBD製品の輸入や販売、医療目的での大麻の使用、産業用大麻の栽培や販売など、多方面に制約を課しているんですね。こうした状況について、仲間の弁護士と何か法的に争えないかを考えているところです。

また、末期がん治療における苦痛の緩和など、生きるために大麻を必要としている人たちもいますよね。これはやはり憲法問題になりうると思います。

かつて、山本正光さんの医療大麻裁判がありましたよね。刑事裁判で争うとしたらこのようなケースしかないのかなと思います。

山本正光さん 第5回公判前に支援者に囲まれる山本正光さん(東京地裁前・弁護士ドットコムニュース撮影)

編注:【山本正光さんの医療大麻裁判】
山本さんは末期がん患者で苦痛を緩和させるために大麻を使っていたが、大麻を所持したとして2015年12月に逮捕・起訴された。判決を迎える前の2016年7月に肝臓がんで亡くなっている。

正高:日本では、患者さんに対して大麻を使う臨床試験は認められていません。ただ、海外では実際に大麻が「医薬品」として認められているという実績があります。

「日本でも倫理的に使えるようにすべきではないか、治験ができるようにしよう」という動きは少しずつ進んではいます。

亀石:研究する自由も制約されているということですね。

正高:そうですね。研究ができないのでデータがない。データがないので研究が認められないという状況です。

●アップデートが必要な「時代遅れ」の法律もある

亀石:大麻取締法の規制根拠もあいまいなものだといえます。やはり、私たち国民の自由を制限するのであれば、科学的・医学的な根拠に基づいて規制をおこなう必要があると思います。

正高:大麻取締法が制定されたのは1948年ですが、大麻に関する研究が本格的に始まったのは1960年代なんです。

正高佑志医師 現行の大麻取締法を疑問視する正高佑志医師。法制定後に研究でさまざまなことが分かってきたと指摘する。

1964年に大麻の成分の1つである「THC(テトラヒドロカンナビノール)」(多幸感や鎮痛作用をもたらす成分)がみつかりました。そして、1990年代になって、ようやく人間の身体の中に大麻と同じような成分が存在すること、大麻がどのように人間に作用するかということなどが分かり始め、病気に関する研究が飛躍的に進みました。

大麻はてんかんのほか、うつ病やPTSD等のこころの病気、認知症、糖尿病、喘息など、200から250ほどの症状に使うことができるとされています。他にもがん患者さんの生活の質を高め、さらに腫瘍自体も小さくなるという実験の結果も得られています。

また、大麻の副作用と考えられていた「大麻精神病」については、因果関係を否定する研究も出てきています。このことが分かってきたのも最近のことです。

しかし、このような変化は日本の法律にまだ全然反映できていません。科学や社会は変化しているのに、法律だけは1948年のままなんです。

亀石:古くて時代遅れになっている法律は少なくありません。今の時代に合わせてアップデートすることが大切だと思います。

●アプローチの方法は戦略的に…法改正に向かって

正高:これまで不思議に思っていたのですが、なぜ大麻に関して声を上げる法律家は少ないのでしょうか。

亀石:やはり、大麻取締法が所持等を禁止している以上、「法律自体がおかしい」と争うことはハードルが高いという現状があります。

実際に、大麻取締法が憲法違反だとして争った裁判例は複数ありますが、無罪になったケースは1件もありません。たとえ法律がおかしいと思っても、基本的には「立法の問題」なので、大麻取締法を改正するしかないと思っています。

亀石倫子弁護士 「弁護士として何ができるか」を日々考えているという亀石倫子弁護士。仲間の弁護士と勉強会を開催するなどしている。

被疑者・被告人を弁護するというアプローチにおいて、大麻取締法自体の問題を訴えるのは非常に難しいと思っています。

日本人はルールを破ったことに対してネガティブな捉え方をする傾向にあり、ルール自体に疑問を抱くことが少ないように思います。大麻取締法に違反した人が何か訴えても、聞く耳を持ってもらえない、メディアも好意的には受け止めない、というのが現状だと思います。

とはいえ、法律の問題である以上、法律家として自分の意見を発信するべきだと思っています。

正高:僕も引き続き情報を発信していきたいと思っています。

亀石:いま、「弁護士として何ができるか」「司法の場で起こせるアクションがないか」ということを仲間の弁護士と相談しているところです。やはり、アプローチの方法は戦略的に考えなければなりません。

大麻取締法改正までの道のりは長いでしょう。でも、とにかく一歩踏み出さなければ何も始まらないと思っています。

<プロフィール>亀石倫子弁護士 【亀石 倫子(かめいし・みちこ)弁護士】
クラブ風営法違反事件(2016年最高裁で無罪確定)、GPS捜査違法事件(2017年最高裁大法廷で違法判決)、タトゥー彫り師医師法違反事件(2018年大阪高裁で逆転無罪)等の刑事事件を多数手がける。2016年に「法律事務所エクラうめだ」を開設。

正高佑志医師 【正高 佑志 (まさたか・ゆうじ) 医師】
1985年京都府生まれ。熊本大学医学部医学科卒。医学博士。2016年にカリフォルニア州にて医療大麻の臨床応用の実際を目の当たりにする。2017年より熊本大学脳神経内科に勤務する傍ら、医療大麻に関するエビデンスに基づいた啓発活動を行う一般社団法人Green Zone Japanを立ち上げ、代表理事として活動している。

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