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2020年02月13日 20時01分

乳幼児「揺さぶられ死」事件で無罪判決あいつぐ 虐待か冤罪か、議論の行方は?

乳幼児「揺さぶられ死」事件で無罪判決あいつぐ 虐待か冤罪か、議論の行方は?
あいつぐ無罪判決を受けて会見するSBS検証プロジェクトのメンバー。左から甲南大学・笹倉香奈教授、秋田真志弁護士、龍谷大学・古川原明子准教授=2020年2月13日、東京・霞が関の司法記者クラブ、弁護士ドットコムニュース撮影

「乳幼児揺さぶられ症候群」(SBS)。子どもが暴力的に揺さぶられることにより頭部が損傷し、大けがをしたり、死亡したりすることをいう。「硬膜下血腫」「網膜出血」「脳浮腫」という3つの症状によって診断できるという理論のもと、厚労省では児童相談所向けの手引きで、これらの症状があればSBSによる虐待を疑うよう示してきた。

ところが近年、SBSによる子どもへの虐待を疑われた家族らに対し、無罪判決があいついでいる。今年に入ってからも、大阪高裁で1月、2つの事件に対して無罪判決がくだされ、2月7日にも東京地裁立川支部で、生後1歳の長女を死なせたとして罪に問われた父親が無罪となった。

この「SBS理論」による問題を検証している弁護士や研究者による団体「SBS検証プロジェクト」はあいつぐ無罪判決を受け、東京・霞が関の司法記者クラブで2月13日に会見。冤罪の背景には、SBS理論の安易な適用があると指摘、あらためて中立的で科学的な議論の必要性を訴えた。

●2000年代から海外では冤罪が明らかに

会見したSBS検証プロジェクトの共同代表、甲南大学の笹倉香奈教授によると、海外では2000年代からこのSBS理論が冤罪を生んでいるのではないかという指摘がされてきたという。

「もともとこの理論は、1970年代にアメリカやイギリスで誕生した仮説でした。3つの症状が、揺さぶりによって起こりうるのではないか、というものでしたが、80年代から90年代にかけて、3つの症状があるから揺さぶられたことがわかる、というふうに変わっていった。そういう論理的な誤謬があったものです。

これには、3つの大きな問題がありました。1つ目は、他の病気や低い位置からの落下でも3つの症状が起こりうるのではないのかという指摘です。2つ目は、揺さぶったら首に損傷が起きるはずなのに、起きたという実例はほとんどないこと。3つ目は、検証したところ、そもそも学問として論理的におかしいということです。

2000年代ごろから英米ではこの理論を検証しなおした結果、冤罪が明らかになる事例がかなり増えてきました。日本でも、脳神経外科医らが問題意識をもっていましたが、虐待を許さないという声に押されてしまったという経緯があります」

しかし、日本でも同じような冤罪が起きているのではないかという疑問から、2017年に立ち上げたのが、このSBS検証プロジェクトだった。プロジェクトでは、国内外の事例を調査研究するとともに、実際の事件の弁護活動や支援を行ってきた。

近年の無罪判決となった事件でも、SBS検証プロジェクトのメンバーである弁護士が多く関わっているという。

●小柄なおばあちゃんが生後2カ月の孫をすごい力で揺さぶった?

笹倉教授とともにSBS検証プロジェクトの共同代表を務める秋田真志弁護士は、SBS理論による弊害を指摘する。「無罪判決が続き、かなりの動きがあったと思っていますが、根本的なところは現在も変わっていません」

日本小児科学会では、現在もSBSへの注意喚起や予防を呼びかけているほか、厚労省の見解に変化はない。

「私たちは、虐待を全否定しているわけでなく、訴追された事件がすべて冤罪だといってるわけでもありません。ただ、医学的な所見のみで、加害されたことまでわかると思い込むSBS理論は、明らかに間違っています」

その最たる例として、昨年10月にあった大阪高裁による無罪判決を挙げる。この事件では、生後2カ月だった孫の女児に対し、頭部になんらかの暴行を加えて死亡させたとして、祖母の女性が罪に問われた。一審では小児科医の鑑定によるSBSが認められ、実刑判決が下されていた。

しかし、大阪高裁では一転、脳神経外科医による別の病気の可能性を示唆した鑑定結果が重視され、無罪判決となったのだ。

「女性は、身長146センチ、体重40キログラムという華奢なおばあちゃんで、20代の人と同じような力で揺さぶったということはありえない。当然、お孫さんを揺さぶる理由もありませんでした。典型的な冤罪事件です。静脈洞血栓症という別の病気だと後からわかりましたが、同じよう冤罪は他にも起きています」

訴追されるだけでなく、一度虐待が疑われた親は大変な苦痛を強いられるという。

「お子さんの体調が悪くなっても、病院に連れていったら、また虐待が疑われてお子さんが連れ去られてしまうのではないかと心配して泣き出すお母さんもいます。虐待と決めつけて、親子分離することが、本当に子どものためになるのか疑問があります。そうした問題も含めて、建設的な議論をしたいです」と秋田弁護士は話す。

●2月14日に弁護士や専門家らがセミナー

なお、日本弁護士連合会は2月14日18時から、東京・霞が関の弁護士会館で「SBS仮説をめぐるセミナー 虐待を防ぎ冤罪も防ぐために、いま知るべきこと」を開催する(事前申し込み不要・参加費無料)。笹倉教授や秋田弁護士も登壇し、医学的にみたSBS問題や無罪判例、海外の状況などを報告する。

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