逮捕状を無断で訂正したとして、愛知県警は10月21日、50代の男性警部補と30代の男性巡査長を有印公文書変造・同行使の疑いで書類送検した。
報道によると、2人は2016年7月、愛知県半田市で起きたひき逃げ事件で、逮捕状に記載された事件の状況を1ヶ所書き換えた疑いが持たれている。2人は、逮捕状請求書に「左折」と書くべきところを「右折」と誤って記載し、半田簡易裁判所に提出した。誤りに気づいたときには、すでに逮捕状が発付されていたため、警部補が巡査長に指示し、逮捕状の文字を「左折」と書き換えたとされている。
2人は「1文字くらいなら許されるだろうと訂正してしまった」と説明しているというが、警察官が逮捕状の内容を書き換えるということは、刑事手続上どのような問題があるのか。刑事手続に詳しい藤本尚道弁護士に聞いた。
●令状主義が形骸化している側面が見える
「警察官が逮捕状の内容を勝手に書き換えた場合、逮捕状は有効なものではなくなります。したがって、そのまま逮捕状を執行した場合は『違法な身柄拘束』となり、その後の被疑者の取調べまでが違法性を帯びるため、被疑者の供述調書など多くの証拠書類が『違法収集証拠』となります。
このような『違法収集証拠』を証拠として許容すると、将来の『違法捜査』を抑制できないことに繋がるため、その証拠能力が否定され刑事裁判の証拠から排除される場合も多々あります。
これは『違法収集証拠の排除原則』と呼ばれ、憲法31条が保障する『適正手続』や憲法33条・35条が保障する『令状主義』から導かれる原則です」
藤本弁護士はこのように指摘する。捜査機関の権力が適切に行使されているかどうかを、裁判所がチェックする仕組みになっているわけだ。
「そうですね。しかし、『適正手続』や『令状主義』が憲法や刑事訴訟法において厳格に規定されているにもかかわらず、刑事手続の実務的な運用においては、むしろ捜査機関の方が『主導権』を握っている感があります。
たとえば『逮捕請求書』に添付される証拠書類は捜査機関が『厳選』したものだけで、被疑者に有利な証拠書類は提出されません。
また、『微妙な案件』では、わざと夜中に逮捕状請求をしたり、チェックが甘いとされる裁判官の当番日に逮捕状請求したりするなど、巧妙に裁判官の『隙』を狙っているのではないかと疑いたくなることもあります。
せっかく憲法33条が逮捕状の発付を裁判官の専権として、捜査機関の逮捕権濫用を阻止しようと規定しているのに、一部でこれが『形骸化』している側面も見え隠れしています。
捜査機関にとって、もはや『適正手続』の概念は棚上げされてしまい、『令状主義』はただの『ルーティン・ワーク』に成り下がっているのかも知れません。
だからこそ、今回、書類送検された警察官らも『1字くらいの書き換えなら』という軽い気持ちになったのでしょう。それだけ普段から『適正手続』を守る感覚が鈍麻し、『令状主義』がなおざりにされてきたことの証左だと思われます。
『適正手続』や『令状主義』の軽視は、まさに捜査機関の『おごり』ですが、その『おごり』が結果として捜査機関の首をも締めかねないことを忘れてはなりません」