兵庫県淡路市で昨年9月、ワゴン車が高速道路を逆走し、観光バスと接触する事故が起きた。事故から4カ月後の今年1月上旬、運転していた会社員の男性(50)が道交法違反と「暴行」の容疑で書類送検された。高速道路の逆走が暴行容疑とされるのは異例とあって、ネットでも大きな話題を呼んだ。
報道によると、男性は昨年9月上旬、淡路市の神戸淡路鳴門自動車道の下り車線を約10キロにわたってワゴン車で逆走した。乗客ら17人の乗る観光バスと接触し、そのまま走り去った疑いがもたれている。乗客にけが人はなかった。男性は警察に対して、逆走していることを認識していたと説明しているという。
暴行というと、相手を殴ったり蹴ったりするイメージがある。今回、運転手はなぜ、暴行容疑で送検されたのだろうか。刑事事件にくわしい田沢剛弁護士に聞いた。
●人に直接触れなくても「暴行」になる
「今回の容疑に違和感を持つ人もいるかもしれませんが、その理由は、『暴行』という言葉のイメージと『(刑法で定められた)暴行罪が予定する暴行』の意味が、かなり異なるからです。
ふつう、暴行というと、相手を直接殴る・蹴るというイメージです。
しかし、『暴行罪が予定する暴行』は、『人の身体に対する不法な有形力の行使』という、もう少し幅広い定義がされているのです」
ざっくり言うと、有形力の行使は「物理的な力を加える」ということらしいが、人に直接触れなくても暴行になるのだろうか?
「暴行罪でいう『有形力の行使』は、人の身体に直接触れる形でなくても、それが人に向けられていれば成立すると考えられています。
判例には、狭い4畳半の室内で被害者を脅かすために日本刀の抜き身を振り回す行為や、相手の身辺で太鼓や鉦(かね)を連打する行為が、『暴行』にあたると判断されたものがあります。
このように、さまざまなケースが『暴行』にあたる可能性があるわけです」
●非常にレアなケース
今回のケースはどう考えればよいだろう。
「今回のような逆走・接触事故について、観光バスに乗っている運転手や乗客に対する『不法な有形力の行使』と判断する余地はあるでしょう。しかし、暴行罪で検挙するのは、非常にレアなケースだと思います」
暴行罪での検挙は、なぜ珍しいのだろうか?
「暴行罪が成立するには、『人の身体への不法な有形力の行使』をしたと、本人が認識している必要があるからです。
高速道路を逆走することは、重大な事故を引き起こしかねない非常に危険な行為です。ただ、運転手に『人の身体へ不法な有形力を行使している』といった認識があったのかという点については、運転手側で直ちにこれを肯定し得るのか、微妙かもしれません」
田沢弁護士はこのように話していた。