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性暴力の相談「警察は顔見知りからの被害を嫌がる」立件に向けた高いハードル(上)
性犯罪被害に詳しい上谷さくら弁護士

性暴力の相談「警察は顔見知りからの被害を嫌がる」立件に向けた高いハードル(上)

元TBS記者のジャーナリスト・山口敬之氏から準強姦被害に遭ったと訴える詩織さん(28)。顔出しかつ実名で性被害を訴えたことで、大きな反響を呼んだ。

詩織さんは5月29日に行った記者会見で、警察から「このようなことはよくある話だから、事件として捜査をするのは難しい」と当初被害届を受理されなかったことを告白。相手が見ず知らずの人でなかった場合、警察がなかなか動いてくれないという現状を訴えた。

2014年に内閣府が行った調査によると、異性から無理矢理性交された経験のある女性に加害者との関係を問うと、多い順に「交際相手・元交際相手」28.2%、「配偶者・元配偶者」19.7%、「職場・アルバイトの関係者」13.7%。強姦被害というものは、決して道端で見ず知らずの人からいきなり襲われるといったものが多いわけではない。

警察はなぜ知り合い同士の性暴力の事件化を避けたがるのだろうか。また性暴力の被害にあった場合、どう行動すれば泣き寝入りせずに済むのか。性犯罪被害に詳しい、上谷さくら弁護士に話を聞いた。

●目撃者も証拠もない場合、性暴力を受けても立件は難しい

ーー性暴力の相談を受けた場合は、どのように対応するのですか

まずは被害の概要を聞いたうえで、相談者の方が、何を望んでいるかを尋ねます。相手に謝って欲しいのか、二度と関わってほしくないのか、慰謝料を払って欲しいのか、刑務所に行って欲しいのか、精神的なショックでしばらく会社に行けなかったから経済的補填をして欲しいのかーー。色々とあります。ただ被害者と加害者が元々交際していた等の場合は、被害者がまだ加害者に気持ちが残っていることもあり、途中で気分が変わることもある。被害者と加害者の関係性による難しい部分もあるので、通り魔的な性犯罪と同様のアドバイスするのではなく、相談者の心情に気をつけています。

ーー性犯罪と警察が判断して捜査するまでに、ハードルを感じることはありますか

強姦や準強姦、強制わいせつなどの刑法に触れるというレベルになると、警察が性犯罪と判断して捜査する割合は、あくまで感覚ですが、私のもとに相談に来る人の半分にも満たないのではないかと思います。逮捕されても不起訴になることも多いので、立件されるとなると、さらに難しいです。

ーー刑事事件にならないケースも多いのですね

警察が最も嫌がる例は相手が顔見知り、さらに元交際相手といった場合です。例えば「元彼から話があると言って一人暮らしの家に行ったら、急に襲われて強姦されました」という場合、服を派手に破られたり体に傷があったりすれば別ですが、通常は目撃者も証拠もないので立件は難しい。例えばそこで元彼が「話しているうちにヨリを戻すことになった、合意があった」と言ったとすると、それを覆す証拠が必要となる。そういった場合、警察は「数か月前まで付き合っていて、性交渉していたのなら、それが今回とどこが違うんだ」、「そもそもなぜ2人っきりになったんだ」という話をしてきます。

相談者の皆さんが被害状況を話す態度等からすると、被害にあったことは間違いないと思うし、とても苦しんでいます。弁護士のところに相談に来ること自体、勇気がいることで、思い悩んだ末にやってきます。ただ、「このように弁解された場合、確かにそうとも言えるから、事件にならないケースも多いんです」といった現実的な話もしなければなりません。一緒に警察に行くこともあります。その場合も「警察に行っても必ず捜査してくれるわけではない」ということや「嫌な質問をされるかもしれないけれど、その質問にはこういう意味があります。ただ、聞き方や対応が悪ければ、私から抗議しますね」といった話をします。

●性暴力を受けたら、体を洗わずそのままで110番を

ーー裁判で争うために、どういった証拠が必要になりますか

まず、気持ち悪いからといってシャワーを浴びたり、その時に着ていた洋服を洗濯したり捨てたりせず、そのまま取っておいて下さい。加害者の唾液や精液などがついている事があります。うがいもせずにいてください。そのままの状態で110番をして、警察が来たらすぐに病院に連れて行ってもらい、緊急避妊ピルを処方してもらって体についたDNAを採取するということが大切です。相談に来られる方には「色々証拠があったんですけど、見るのも嫌だから捨てちゃったんです」という方も多いのですが、重要な証拠ですので、そのままにしてください。中には行為自体を否認する加害者もいます。そのような場合、DNAが出たことで、行為自体なかったというのが嘘だと発覚し、観念して自白するケースもあります。

それと今はメールやラインが証拠になることも多いですね。例えば、行為後に「なんでそんなひどいことしたの?」とメールしたら、相手から「あんな手荒なことするつもりなかった」など返信が来たとか。証拠の一つとして重要です。

性犯罪、刑法改正でも抜け穴「強い暴行・脅迫がない性被害は野放し状態」(下)https://www.bengo4.com/c_1009/c_1198/n_6232/に続く

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

上谷 さくら
上谷 さくら(かみたに さくら)弁護士 桜みらい法律事務所
福岡県出身。青山学院大学法学部卒業後、毎日新聞社に入社。新聞記者として勤務した後、2007年弁護士登録。犯罪被害者支援弁護士フォーラム(VSフォーラム)事務次長。第一東京弁護士会犯罪被害者に関する委員会委員、元青山学院大学法科大学院実務家教員、保護司。著書に「おとめ六法」(共著、KADOKAWA)、「死刑賛成弁護士」(共著、文春新書など)

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