弁護士会照会での口座特定と預金仮差押え・不動産処分禁止仮処分の併用で持分売却を防ぎ、財産分与で自宅不動産の全取得に成功した事例
相談前の状況
依頼者(妻)は、夫(相手方)と18年以上にわたって長期間別居状態にありましたが、関係の清算と財産分与を求めて夫婦関係調整(離婚)調停を申し立てました。
別居期間が非常に長かったこともあり、相手方は調停において「別居後に受け取った退職金(約885万円)や企業年金などは生活費や医療費として既にすべて費消しており、手元には残っていないため財産分与の対象にはならない」と強硬に主張しました。また、依頼者が現在も居住している夫婦共有の自宅不動産(相手方持分5分の4、依頼者持分5分の1)についても、建物を解体した上での売却を前提とした低い評価額を主張し、さらには依頼者が強く求めていた年金分割(割合0.5)についても断固として拒否する姿勢を見せました。
相手方は、自らの財産を開示しようとせず、話し合いは完全に平行線をたどり、調停は不成立となることが濃厚な状況に陥りました。 依頼者としては、長年住み慣れた自宅不動産をなんとしても確保し、今後の生活の基盤を守りたいという強い希望がありましたが、調停が長引く中、相手方が自己の不動産持分(5分の4)を第三者に売却してしまったり、預貯金を隠匿・費消してしまったりするリスクが顕在化していました。財産分与請求権を確保するためには、相手方の財産を早急に保全する手続きをとる必要がありましたが、依頼者は長年の別居により相手方の現在のメイン口座等の財産状況を正確に把握できていないという大きな課題がありました。
解決への流れ
ご依頼後、まずは徹底的な財産調査に着手しました。相手方が隠匿しようとしていた退職金や企業年金、各種積立金について、裁判所の調査嘱託等を活用して支給実績や残高を正確に割り出しました。さらに、弁護士会照会を駆使して相手方名義の預貯金口座を特定し、公的年金等が振り込まれている相手方のメイン口座を把握することに成功しました。
相手方の財産散逸を防ぐため、直ちに保全手続(仮差押え・仮処分)を申し立てました。ここでこだわったのは、原告の持つ財産分与請求権(金銭債権等)の被保全債権額に抵触・超過しないよう緻密な計算を行い、「預金債権の仮差押え」と「本件不動産の処分禁止仮処分」の両方を裁判所に認めさせた点です。
預金債権の仮差押えによって相手方のメイン口座を押さえたことで、相手方の資金繰りに直接的な打撃を与え、早期解決に向けた極めて強いプレッシャーをかけることができました。 さらに、特筆すべきは不動産に対して「仮差押え」ではなく「処分禁止仮処分」を選択したことです。実際、保全手続後、相手方宛に仮差押不動産を専門に取り扱う不動産業者からハガキ(ダイレクトメール)が届くという事態が発生しました。もし不動産を「仮差押え」にしていた場合、相手方が解放金を供託して仮差押えを解除し、その業者に持分(5分の4)を売却してしまうおそれがありました。しかし、「処分禁止仮処分」を掛けていたことにより、解放金による解除を許さず、持分の第三者への売却を完全に防ぐことができました。
その後、訴訟へと移行し、被告(相手方)から歩み寄る形で和解が成立しました。結果として、依頼者が希望していた「自宅不動産のすべての持分取得(相手方持分の全部移転)」を実現しました。
平山 友喜 弁護士からのコメント
本件の最大の勝因は、「適切な保全手続の組み合わせ」と「徹底した財産調査」を迅速に行った点に尽きます。
離婚に伴う財産分与において、長期間別居している相手方が「財産は使ってしまって無い」と主張するケースは珍しくありません。このような場合、相手方の言葉を鵜呑みにせず、弁護士会照会や調査嘱託などの法的手段を用いて、客観的な証拠から財産を丸裸にすることが極めて重要です。本件では、これらの調査によって相手方のメイン口座を特定できたことが、その後の大きな武器となりました。
また、保全手続の戦術選択が功を奏しました。債権額の範囲内でしか認められない保全手続において、預金と不動産の両方を対象とするためには緻密な立証が必要でしたが、無事に双方の決定を得ることができました。 特に、不動産に対して「処分禁止仮処分」を選択したことは実務上非常に重要なポイントでした。問題のある不動産(持分など)を買い取る業者は常に登記簿を監視しており、保全がかかるとすぐに所有者にアプローチしてきます。「仮差押え」であれば金銭(解放金)を積むことで外されてしまい、業者に持分を売却されて共有物分割請求などの泥沼の紛争に発展するリスクがありました。処分禁止仮処分にしておいたことで、この最悪のシナリオを未然に防ぎ、交渉の主導権を完全に握ることができました。
預金を差し押さえられて生活資金の自由を奪われ、不動産の売却も封じられた相手方は、結果的に当方の要求を飲む形での訴訟上の和解に応じざるを得ませんでした。別居期間が18年以上と極めて長く、財産関係の立証が困難な事案であっても、的確な調査と戦略的な債権回収(保全)手法を用いることで、依頼者の最大の希望である「自宅の確保」と十分な経済的利益を実現できることを示す意義深い事例です。
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