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幼稚園のイベントDVD、4500円するからママ友同士で「コピー」 これって違法?
画像はイメージです(maroke / PIXTA)

幼稚園のイベントDVD、4500円するからママ友同士で「コピー」 これって違法?

幼稚園で販売される、クリスマス会のブルーレイ。これを「ママ友に費用を折半して焼いてもらう」と呟いたツイートのスクリーンショットが話題になりました。

このスクリーンショットを引用したのは、中継・撮影業務などを行なっている「有限会社ビビッド」(長野県駒ケ根市)のアカウント。

担当者は弁護士ドットコムニュースの取材に、実際にこうした違法コピーが売り上げのマイナスに影響しているかは「推測の話」としながら、「それぞれのご家庭で経済事情もある。業者への加害者意識が薄れ、節約のために違法コピーしてしまうのは、止められない流れかもしれません」と話します。

●「割り勘で買ってコピー」、「泥棒と一緒」

幼稚園や保育園では、業者が撮影したイベントの様子をDVDで販売する方式がよく取られているようです。子育て情報サイト「ママスタ」の掲示板には、「幼稚園でのお泊まり保育DVD4,500円」(http://mamastar.jp/bbs/comment.do?topicId=3107222{target=_blank})と題したスレッドで、スレ主が「皆なら買う?」と問いかけていました。

これに対し「私の所は仲良しママ達で話してコピー出来る人が買って500円で売ってる」、「私も、皆で割り勘で買ってコピーしてた」といった声が複数ありました。一方で、「泥棒と一緒じゃない?そのくらいの値段なら普通に買えばいいのに」と反発する人もいました。

幼稚園や保育園で販売されるDVDをママ友同士でコピーし合う行為は、違法なのでしょうか。佐藤孝丞弁護士に聞きました。

●「家庭内その他これに準ずる限られた範囲」でのみ認められている

ーー正規の値段でDVDを購入した人が、コピーして友人に安く販売した場合、法的に問題でしょうか

「DVDをコピーする行為は、DVDの複製権者(著作権法21条)である業者の許諾なしに行われています。

ただ、著作権法は、『個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下『私的使用』という)を目的とするときは(中略)その使用する者が複製することができる』と定めています(著作権法30条1項)。

したがって、当該複製行為が上記『私的使用』の目的であると認定できれば、複製権侵害にならないことになります」

ーー「私的使用」の目的というのは、具体的にどこまでの範囲ですか

「最も問題になるのは、私的使用目的の要件の1つである『家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において』といえるかどうかです」

●ママ友同士でコピー「業者の複製権を侵害している」

ーー「これに準ずる限られた範囲内」というのは、どこまででしょう

抽象的な文言であるため、判断が難しいです。一般的には、家庭内と同程度の強い個人的結合関係が及んでいる範囲といえるかどうかという基準で判断されます。

ーー今回のケースはどうでしょうか

「具体的な事情や評価の仕方などによって、結論が分かれるところと思いますが、単なるママ友という程度の関係では、家庭内と同程度の強い個人的結合関係が及んでいるとはいえないと考えます。したがって、DVD購入者の複製行為は、業者の複製権を侵害しているといえます」

●無償でコピーしても「複製権侵害」になる

ーー無償でコピーし渡したとしても、問題でしょうか。

「はい。複製権侵害は、有償・無償を問わず成立します。したがって、無償でママ友へ譲るつもりであったとしても、先ほど述べた結論が変わることはないでしょう」

●10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金

ーーこうしたDVDコピーを行うことで、起こりうるリスクを教えてください

「まず、複製権を含む著作権侵害行為は、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金に処し、又はその両方が科されます(著作権法119条1項)。

著作権侵害罪は、親告罪ですので(著作権法123条1項)、犯人を知った日から6カ月以内に告訴されれば(刑事訴訟法235条本文)、起訴・処罰されるリスクがあります。

また、平成30年12月30日に改正著作権法が施行されました。著作権等侵害罪のうち、以下の全ての要件に該当する場合に限り、非親告罪とし、著作権者等の告訴がなくても検察官が起訴できるようになりました。

(1)侵害者が、対価として財産上の利益を得る目的や、有償著作物等の販売利益を害する目的を有していること

(2)有償著作物等を『原作のまま』公衆譲渡もしくは公衆送信する侵害行為又はこれらの行為のために複製する侵害行為であること

(3)権利者の利益を不当に害する場合であること

つまり、著作権侵害罪の一部は、たとえ著作権者が問題にしなくても、刑事責任を負うリスクが生じることになります。本件の複製行為が仮に不特定または多数人のママ友への譲渡を予定しているのであれば、「公衆譲渡」に該当する可能性があり、告訴がなくても起訴される危険があることになります。

●DVDを受け取った側もリスク

ーーDVDを受け取った側も法的責任を問われる可能性がありますか

「コピーを受け取った人が意思を通じて前述の複製権侵害をなしたときは、共同不法行為として、それぞれDVD撮影・販売会社に対し、損害賠償義務を負います(民法709条、719条)。

他にも、受けた利益を返還しなければならない「不当利得返還請求権」の行使や(民法703条)、侵害行為をやめさせたり廃棄等の措置をするよう請求する「差止め請求」(著作権法112条)などがなされる可能性もあります。

DVD購入者が複製行為をする以前に、購入者と意思を通じて関与していた場合は、著作権侵害罪の共同正犯となり、同じく起訴・処罰されるおそれがあります。

複製権侵害は、一般の方が想像するよりもかなり多くの場面で成立し、刑事罰まで定められているものです。著作物の複製には十分にご注意ください」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

佐藤 孝丞
佐藤 孝丞(さとう こうすけ)弁護士 井澤・黒井・阿部法律事務所 東京オフィス
都内を中心に、企業法務一般、特に著作権・商標権・模倣品対応等の知的財産案件に注力。特許庁審判部にて勤務経験があり、弁理士としても活動中。一方で、相続等の様々な案件を取り扱う。弁護士知財ネット会員。

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