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地毛証明書の提出、スマホの長期没収…「学校の指導」どこまでが法的に許される?
高島惇弁護士

地毛証明書の提出、スマホの長期没収…「学校の指導」どこまでが法的に許される?

学校問題を語る上では、校則や制服、持ち物検査などいくつもの論点がある。在学中、多くの生徒は「このルールに何の意味があるの?大人は自由なのに」と思いながらも、うまくルールと付き合いながら卒業に向けて各々の学校生活に励んでいるだろう。

直近では銀座の公立小でのアルマーニ制服(標準服)の問題が話題になっているが、ニュースを振り返ってみると、教員が生徒に「地毛証明書」を提出させたり、髪を切るなどの行き過ぎた生徒指導が発覚したりと教育問題を考えさせられる事案がいくつも明らかになっている。

弁護士ドットコムニュースでは2月13日、校則や制服など学校で強いられるものを改めて法的な観点から考えようと、教育問題に詳しい高島惇弁護士にインタビューを行った。主なやり取りは以下のとおり。

●校則に明文化された根拠なし

ーーまず、校則について教えてください。何を根拠に生徒の生活を縛っているのでしょうか

「実は法律上明文化されている根拠はありません。一般的には学校が有する管理権から当然に発生するものと理解されています。学校が、校内秩序を維持するために学校内部の事実上のルールとして定めるのは問題なく、広範な裁量権が認められています」

ーー裁判においてはどう扱われますか

「裁判になった場合、校則は一要素として考慮されますが、懲戒処分の適法性を判断するに当たって必ずしも絶対視されるわけではありません。校則の法的位置付けについて世間に知られていないとすれば、判例の理解に関する法教育がやや不十分なのかもしれません。

その一方で、校則自体の適法性について、教育を目的として定められている場合には、その内容が著しく不合理でない限り適法と判断する傾向にあります。つまり、裁判所としては、極めて緩やかな基準を採用していると評価できます」

●黒髪強制は憲法違反の問題

ーー制服の着用を義務づけることは問題になりますか

「いわゆる『部分社会』として評価するかどうかはともかく、学校内部での自治についてはやはり広範な裁量権が存在する以上、問題にするのは通常難しいでしょう。制服の着用など一律にルールを設けることは、当然に表現の自由を侵害しているとまではいえません。

ただ、たとえば黒髪にすることを強いるのは問題です。茶髪や縮毛気味の生徒に対し、黒髪直毛を強要するのは先天的な髪の色や質に対する差別意識を含んでいますし、地毛証明についてもそのような差別意識の延長として捉えることはできます。そうした指導を行えば、憲法13条(幸福追求権)、憲法14条(平等原則)違反の問題になるおそれはあるでしょう」

ーー持ち物検査をされ、携帯電話などを没収されることについてはいかがですか

「所持品検査も学校内部での話で、校内の安全を確保するために裁量権の範囲にあるといえます。逆に、学校内で刺殺事件が起きたケースにおいて、所持品の検査等を入念にする措置を講じて他の生徒の身体に対する危害を加えることを阻止する措置を怠ったとして、学校の指導監督義務違反を認定した裁判例もあります(東京高裁平成11年9月28日判決)」

ーー憲法35条は「何人も、所持品について侵入、捜索及び押収を受けることのない権利」を規定しています

「確かに『何人も』と規定していますが、一般市民社会のことを想定したもので、学校内部のような特定の集合体にそのまま当てはめるのは難しいと思います。

たとえば携帯電話なら、校則違反として、1週間とか1か月とか平気で預かってしまう学校もあります。これだとやり過ぎと評価されるおそれがあるため、一時的な預かりにとどめ、下校時に返却するのが無難です。やり過ぎの場合、携帯電話を使用できないことによる精神的苦痛を被ったとして損害賠償の訴訟を起こすことが考えられます。文部科学省も「学校における携帯電話の取扱い等について」と題する通達で、あくまでも指導を超えない範囲で一時的な預かりに留めるよう求めています」

●学校の評判を気にした指導は正当化されない

ーー学校の外で生徒指導の教員に厳しく叱責され、持ち物を没収されることもあります

「これは、物理的には学校の外であったとしても、風紀の乱れにつながると解すれば、学校側にはその指導を正当化する余地は残ります。ただ、学校の外である以上、指導するにしても慎重を期すべきです」

ーー本音では学校の世間体を気にして風紀の乱れをただすこともあるようです

「生徒指導はあくまでも教育的配慮の観点から正当化されるものです。表立って学校側が言うことはないでしょうが、自校の名誉や受験性の評判などを気にしての指導では、正当化されにくいでしょう」

ーー仮にゲームセンターに行くことを禁止している学校で、土日の昼間に生徒が私服で遊びに行き、教師に見つかって怒られたという場合はいかがでしょうか

「まずゲームセンターへの入店自体は、直ちに違法と評価されるわけではありません。夜間に未成年が入り浸るようなことがあれば別の問題となりますが。また、私服であれば学校の風紀を乱しているとも通常いえません。この場合、このような入店行為のみを理由として退学処分を下せば、違法と評価されるおそれはかなりあると考えます。

また、私が扱った事件で、生徒が自宅謹慎中に自宅で携帯電話を一切使ってはいけないと指導する学校が存在したのですが、自宅は完全にプライベートな場ですし、このような場において24時間携帯電話の使用を禁止するのは、さすがに裁量権の範囲を逸脱濫用しています。典型的な、やりすぎの規制といえます」

●安易な退学処分は違法

ーー退学など学校による処分についてはどのように考えていますか

「多くの学校では懲戒基準を内部で定めていますし、文部科学省の通達でも懲戒基準を定めて生徒へ周知するよう指導しています。そして、法律的には、校則違反と懲戒処分は分けて考えるべきです。生徒の行為が校則に違反したとしても、それが校内秩序にどう影響したのか、退学処分もやむを得ないと真に言える状況なのかということを見ていくべきです。

やむを得ないとまではいえないのなら、違法な退学処分と裁判所が判断する可能性があります。また、平等原則の観点も重要です。たとえば同種の行為について、その学校で過去何十年にわたって一度も退学処分を下していないということなら、今回に限り退学処分を下すのは恣意的な運用と評価されかねません」

ーーたとえば小学校高学年になり、ランドセルが小さくて窮屈で、しかも傷んできた場合、ランドセル以外の別の市販のカバンを使うことを認めない学校もあるようです

「これは難しい問題ですが、公立の小学校であれば退学処分というペナルティーを科されることは法律上あり得ないので、そうした指導をあまり気にすることなく卒業まで通い続けるというのも一つの選択肢ではあります。学校との関係は悪化するでしょうが。

私立の小学校でも、児童の在籍地位を剥奪する退学処分はきわめて重い処分で、その要件を認定するには慎重な検討が必要とされます。校則違反のカバンを持ってくることは軽微な違反ですから、このような違反のみを理由として退学処分に結びつけてきたとしたら、校長の裁量権を逸脱する違法行為となりえます」

●制服が必要とはいえない

ーー校則や制服はそもそも必要なのでしょうか

「難しい問題です。校則については、学校の伝統や校風が長年反映されてきたもので、その内容に疑問に思う教員がいたとしても簡単には手をつけられない。裁判で問題を指摘され初めて校則を変更するというケースは少なくないのではないでしょうか。

制服はどうしても必要かというと、必ずしもそうとは言い切れないのは確かです。実際、制服を定めていない学校は多数存在しますし。統一した制服で共通したアイデンティティを構築するという考え方にも決して理解できないわけではありませんが、多様な価値観の尊重という観点からすれば、自治体に指定されて入学した全ての生徒に押しつけるのは今後難しくなってくるのかもしれません」

●「スクールセクハラ」対策を

ーー最近、教育現場で気になることは他にどのようなことでしょうか

「いわゆる『スクールセクハラ』が非常に問題だと思っています。スクールセクハラは様々な類型が存在するのですが、教育実習先の学校で、実習生がセクハラ被害を教員から受けるケースにとりわけ注目しており、制度面での対応が必要だと考えています。

スクールセクハラというと、教師の生徒に対するわいせつ行為が注目されがちですが、教職員間でのハラスメントや生徒の教師に対するハラスメントといった様々な類型が存在し、それぞれが固有の問題を抱えているため、まずはその実態解明に向けて行動するのが重要ではないでしょうか」

(取材:弁護士ドットコムニュース記者 下山祐治)早稲田大卒。国家公務員1種試験合格(法律職)。2007年、農林水産省入省。2010年に朝日新聞社に移り、記者として経済部や富山総局、高松総局で勤務。2017年12月、弁護士ドットコム株式会社に入社。twitter : @Yuji_Shimoyama

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

高島 惇
高島 惇(たかしま あつし)弁護士 法律事務所アルシエン
学校案件や児童相談所案件といった、子どもの権利を巡る紛争について全国的に対応しており、メディアや講演などを通じて学校などが抱えている問題点を周知する活動も行っている。近著として、「いじめ事件の弁護士実務―弁護活動で外せないポイントと留意点」(第一法規)。

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